第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-2] 脳卒中片麻痺患者の肩関節亜脱臼に関する知見創出

浅井 麻衣1, 小森 健司1, 佐中 孝二2 (1.社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院リハビリテーション技術室, 2.生体機構研究所)

<目的>
 肩関節は,運動自由度が大きい反面,脱臼等の障害が生じやすい不安定な関節である.肩関節には,上腕骨頭を抱えるように,回旋筋腱板(棘上筋,棘下筋,小円筋,肩甲下筋)が付着している.これらの筋は,上腕骨と肩甲骨を繋いで安定させ,ダイナミックな動きを引き出す.しかし,脳卒中片麻痺患者は,運動麻痺により回旋筋腱板の役割が破綻し,肩関節亜脱臼が生じることがある.今回は,「肩関節アンドロイドモデル」を用い肩関節の構造的な検証を行い,肩関節亜脱臼を生じた患者が,肩関節を安定させるために効果的な治療を模索した.
<方法>
 前述の肩関節アンドロイドモデルとは,解剖学と徒手療法を情報源に,力学的観点から必要最小限の構成要素で生体機構を再現し,それぞれの構成要素がどのように機能へ関与しているかを知る事を目的に構造化された生体機構アンドロイドのことである1).本モデルは,前方にある複数の靭帯モデル(上・中・下関節上腕靭帯,烏口肩峰靭帯)と,回旋筋腱板モデルから構成されている.回旋筋腱板が収縮されていない状態では,上腕骨頭の位置が下がり,肩関節亜脱臼を呈する.肩関節亜脱臼の改善には,各々の回旋筋腱板の収縮が必要である.今回は,肩関節アンドロイドモデルを利用し,肩関節亜脱臼の状態から,各々の回旋筋腱板の作用を検証し,それぞれの筋がどのような役割を担っているか検証した.
<結果>
 肩関節アンドロイドモデルから得られた結果は,以下の通りである.肩関節亜脱臼の改善の手順として,まずは棘下筋が上腕骨頭を引き上げ,これにより亜脱臼肢位は回避出来る.但し,棘下筋のみの作用では肩関節外旋位となるため,肩甲下筋の作用で肩関節外旋位から中間位へと回旋方向を調整する.さらに,棘下筋と肩甲下筋のみでは肩関節内転位となるため,棘上筋で肩関節を外転し,中間位に安定させる.なお,小円筋については棘下筋の補完機能を担っている事が示唆された.これは特に姿勢により重要性が変化する傾向にあったが,棘下筋の修飾作用を担っている事が明らかになった.
<結論>
 肩関節亜脱臼の改善には,棘下筋の作用が重要と示唆された.また,棘下筋のみでなく,肩甲下筋,棘上筋の作用で肩関節の基本肢位確保を図ることが示唆された.さらに,小円筋については,肢位による介入特性の変化を有し,基本的には棘下筋を補完するものの,立位に比して座位においてその介入量が増大する傾向にあった.このことから,座位においては,立位に比してより複雑な制御を必要とする事が示唆された.これは,訓練の難易度と関連する可能性があり,亜脱臼の改善を目指す上で,座位よりは立位での適合性確保の方がより容易である可能性が示唆された.但し,この傾向はあくまで肩関節アンドロイドモデルの知見に過ぎない為,今後より追跡的な研究や臨床での知見創出が必要となる.
 脳卒中片麻痺患者の肩関節亜脱臼については,医療者にとって一般的なキーワードである割に,その対処対策は統一的な見解に至っているとは言えない.今後様々な視座からこの点について知見創出を試み,いち早く統一的な見解を見出す必要があると考える.
1)小森健司,佐中孝二:アンドロイドモデルを用いた肩関節回旋運動についての医療情報創出:第50回日本作業療法学会.2016;OP-5-4