第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-10] 運転訓練の対象となり得る脳損傷者の特性について- ケースコントロール研究 -

生田 純一1,2, 那須 識徳1,3, 川間 健之介4 (1.農協共済中伊豆リハビリテーションセンターリハビリテーション部 作業療法科, 2.筑波大学大学院 人間総合科学研究群 リハビリテーション科学学位プログラム(博士後期課程), 3.東京都立大学人間健康科学研究科 作業療法科学域, 4.筑波大学 人間系)

【はじめに】脳損傷者の運転再開は,その後の社会参加において重要な要素となるものの,国内では評価が主であり,介入については事例報告の域を超えていない.欧米各国では,運転場面で問題を認めた脳損傷者に対して,運転固有の技能獲得を目的とした運転訓練が実施されているが,十分なエビデンスは得られていない(George,2014).加えて,運転訓練の対象となり得る特性についても明らかにされていない.したがって,本研究の目的は,実車訓練を受けた脳損傷者について,どのような特性を有する者が運転訓練の対象となり得るのか検討することである.
【方法】対象は,2019年12月から2022年4月の間に所属機関で自動車運転評価を受けた脳損傷者135名.調査項目は,基本情報,発症から実車評価までの期間,身体機能,神経心理学的検査,DS検査,路上評価結果,院内コースの実車回数と時間であった.所属機関では,教習所における路上評価の前に院内コースで運転操作の評価および習熟を図っている.本研究では,院内コースで運転行動に問題を認めた場合,主治医の許可を得て実車訓練へ移行した.実車訓練は,教習所で研修を受講した作業療法士が担当し,交通法規および教習所における指導方法に準じて,院内コースで走行練習を行った.走行練習としては,基本走行,見通しの悪い交差点,S 字・クランク等の狭路,後退駐車などを行った.統計学的解析は,対象者を①評価のみで路上評価で適性ありと判定された者(評価のみ群),②3回以上の実車訓練を受けて路上評価で適性ありと判定された者(実車-適性あり群),③3回以上の実車訓練を受けたが,路上評価で適性なしと判定された者(適性なし群)の3群に割付した.正規性を確認した後に一元配置分散分析もしくはKruskal-Wallisの検定を行った.統計的有意性が確認された場合,その後の多重比較には,Bonferroni法,Dunn-Bonferroni法を適用した.本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象者には本研究について書面および口頭で説明を行い,同意書に署名を得た.
【結果】参加者135名のうち,46.7%(n=63)が評価後に,路上評価で適性ありと判定された.残りの53.3%(n=72)は,院内コースで運転行動の問題が認められ,実車訓練(平均6.67回,412分間)を受けてから路上評価へ臨んだ.結果,43名が適性ありと判定され,29名が適性なしと判定された.実車-適性あり群は,評価のみ群と比較して年齢が高く(F(2,132)=4.599,p=0.001),SIAS上下肢の得点が低く(p<0.001),発症から実車評価までの期間が長期(p<0.001)である傾向が認められた.認知機能面では注意機能や情報処理能力を測定する検査であるKDBT(p<0.001),TMT-B(p=0.02),SDMT(F(2,132)=10.614,p=0.001)の成績低下を認めた.実車-適性あり群と適性なし群を比較すると,適性なし群は視空間認知機能を測定するROCFの成績低下(p=0.023)やDS検査における左右の注意配分(p=0.029)など運転に大きく影響を与える項目で低下を認めた.また,問題となる運転行動(p=0.003)が多く認められた.
【考察】視空間認知能力など運転に不可欠となる認知機能に問題を認めず,情報処理能力の低下が主問題となっている場合,運転文脈に基づいた運転訓練の対象となり得る可能性がある.実車訓練を行った2群において注意機能や情報処理能力に大きな差がないことから,実車-適性あり群は実車訓練により自身の心身機能に合わせた運転行動の変化が認められた可能性がある.この運転行動の変化については,DS訓練でも同様の変化が得られるか検討を行う必要がある.これらの問いに答えるため運転訓練に関するさらなる対照研究が必要である.