第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-11] 姿勢コントロールの改善が箸操作の改善につながった一事例

小林 悠大, 橋場 美樹 (上伊那生協病院回復期リハビリテーション課)

【はじめに】
左被殻出血により軽度右片麻痺を呈し,箸操作の改善を望む事例を担当した.箸操作の動作分析から姿勢コントロールの改善を図り,協調的な右上肢運動や知覚探索の向上から箸操作の改善につながったため以下に報告する.尚,本報告については,書面にて本人の同意を得ている. 
【事例紹介】
60歳代男性.現病歴はX日,左被殻出血と診断.保存的に加療し,X+19日当院へ転院となった.病前生活はすべて自立.本人の希望は箸操作の向上.
【作業療法評価(X+7週)】
右上肢FMA64点.触覚・位置覚の左右差なし.著明なROM制限なし.STEF右89点,左96点.FIM126点.食事姿勢は座位にて上部体幹屈曲し,右側の抗重力活動が乏しくなり,リーチや箸操作時に右肩甲骨の挙上や上肢屈筋の筋緊張を高めやすかった.箸の操作は,前腕手指の動きの円滑性・協調性が乏しく,茶碗から食物のすくいにくさ,箸先の開きにくさや食物を挟む際に箸先がねじれやすいことが観察された.本人の訴え:「箸が使いにくい.指がうまく動かない」.
【介入方針】
箸操作の拙劣さ,上肢末梢の円滑性・協調性低下が見られるが,上肢個々の分離運動は可能であり,食事動作での姿勢コントロールの乏しさが,右肩甲帯挙上での代償が生じ,上肢屈筋の過活動,箸の操作性低下につながっていると考えた.そこで体幹や肩甲帯を中心とした介入から機能的な座位の獲得を図り,箸操作の向上を図ることとした.
【経過】
体幹,肩甲帯のアライメント修正,骨盤帯の選択運動から体幹の抗重力伸展活動の改善を図った.機能的な座位の獲得がはかれてくると,肩甲骨の挙上が軽減し,上肢屈筋の過活動軽減が見られた.その後,上肢の協調的なリーチ動作の改善がはかれたところで,手外・内在筋の柔軟性の改善や運動促通を図り,Activityでの知覚探索を伴った上肢の複合運動や箸先からの知覚探索を促しながら箸操作練習を段階的に実施した.
【結果(X+11週)】
右上肢FMA66点.STEF右95点,左98点.食事でのリーチや箸操作での抗重力姿勢を保持でき,姿勢コントロールの改善が見られる.また,肩甲骨挙上の軽減,上肢屈筋の筋緊張もコントロールされた.箸操作は前腕・手関節を円滑的・協調的に動かしながら茶碗から食物をすくうことができ,箸先の開きも拡大,食物を挟む際の箸先からの抵抗感にあった力の調節ができ箸先がねじれることが軽減し操作性の改善が見られた.本人の主観:「箸は使いやすく,困らなくなった」.
【考察】
立松(2022)は食事では姿勢調整や坐位バランスを保ちながら,質量中心を高く保持して上肢の精細運動が行われるとしている.事例においても,上肢個々の分離は可能であったが,食事姿勢での右側の抗重力活動が乏しく,上肢活動での右肩甲帯の挙上や右上肢屈筋の過活動が見られ,姿勢コントロールに問題があると考えた.金子(2018)は体幹が屈曲姿勢だとリーチ動作で屈筋群が優位な運動パターンになりやすいとしている.山本(2020)は道具そのものを感じ取る(知覚探索)ためには姿勢コントロールが背景となり,全身の選択的関節運動によって成り立つとしている.体幹の抗重力姿勢の改善から機能的な座位の獲得が上肢操作での姿勢コントロール改善となり,上肢屈筋の過活動の減弱,上肢の複合的運動が円滑になり,知覚探索-運動を向上させ,箸操作改善につながったと考えられる.