第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-2] 身体失認および病態失認は脳卒中後肩関節痛の予防を困難にする:症例報告

藤井 真由, 井川 祐樹, 内沢 秀和, 生野 公貴 (医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】
脳卒中後に生じる肩関節痛(Post Stroke Shoulder Pain:PSSP)はADLやQOLを低下させ,リハビリテーション介入自体を制限させる重要な問題の一つである.PSSPは軟部組織損傷に起因すると考えられており,重度運動麻痺や脳卒中重症度が予測因子とされているが,身体失認や病態失認の合併は麻痺側上肢の管理不足を助長させるため,PSSPの発生リスクが高くなると予想される.今回,運動麻痺が重度で,左側身体失認,病態失認を合併していた症例からPSSPの発生の経緯とその予防策について考察する.
【症例紹介】
症例は70歳代女性である.右中大脳動脈領域にアテローム性多発脳梗塞を発症し,23病日目に回復期病棟へ転入院となった.入院時の運動機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)14点,Action Research Arm Test(ARAT)は0点で,感覚障害はなく,肩の痛みも認めなかった.超音波画像診断装置による評価からも肩の軟部組織損傷所見は認めなかった.Mini-Mental State Examination(MMSE)は30点であった.行動性無視検査(BIT)は140点で左半側空間無視は認めなかったが,Catherine Bergego Scale(CBS)では主観3点/客観9点(差分6点)で,行動上の左身体の無視症状を認めた.ADLでは起居時に肩関節伸展内転内旋位となり,上肢を保護しようとせず,歩行時には左身体が壁や物に衝突しているにも関わらず「何も問題ありません」と麻痺側の認識が低下していた.病態失認の指標であるVisual-Analogue Test for Anosognosia for motor impairment(VATAm)は主観28点/客観36点(差分8点)で病態失認を認めた.本症例報告に際して本人より手記にて同意を得ている.
【経過および方法】
40病日目に左麻痺側肩関節にNumerical Rating Scale(NRS)5の痛みが出現したため,超音波画像評価を行うと左棘上筋付着部に低エコー像を認め,組織損傷が疑われた.臥床時や車椅子駆動時の麻痺側上肢のポジショニングや日中のアームスリング着用,上肢管理方法について注意事項の掲示,病棟スタッフへの情報共有を実施したが,麻痺側上肢の管理は改善せず,本人は「できている」と発言していた.66病日後,超音波画像評価では棘上筋付着部の低エコー所見は改善し,上肢機能もFMAは31点,ARAT22点と徐々に改善を認めた.しかし,CBSは主観0点/客観4点(差分4点)で身体の無視は残存しており,車椅子移乗時にはアームレストに左手が絡んだ状態でも移乗しようとする場面がたびたび観察された.VATAmは主観20点/客観27点(差分7点)で病態失認も残存していた.163病日目にはFMA42点,ARAT48点で大幅に改善を認めたが,依然として上肢の管理不足は観察され,PSSPは寛解と再燃を繰り返した.
【考察】
本症例のPSSPは,入院初期の重度運動麻痺に加えて,麻痺側上肢の不注意と管理不足によって生じた肩の軟部組織損傷によるものと考えられた.PSSPが出現した後も麻痺側上肢の管理の指導を実施したが,管理不足が修正されなかったのは失認による影響が強いと考えられた.運動機能が向上したのにも関わらずPSSPの再燃を繰り返したが,麻痺側上肢の過剰な代償運動パターンがPSSP発症の要因となる報告もあり,失認を呈する場合は運動麻痺が軽度であっても注意する必要が考えられる.以上のことから,病態失認および身体失認を呈する症例のPSSPの発症と増悪を予防するためには,上肢麻痺が十分改善してくるまでは日常生活上で徹底的に麻痺側上肢を保護する必要があると考える,一方,過剰な上肢保護よる弊害として生じるであろう不動による筋萎縮や拘縮,麻痺側上肢の認識不足に関しては悪化しないよう注意深くモニタリングしながら介入することが重要と考えられる.