第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-12] ポスター:脳血管疾患等 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-12-11] 回復段階に応じた具体的な目標設定を行うことで家庭内役割の再獲得へ至った事例

佐々木 有里1, 大高 連1, 鈴木 達也1,2 (1.天竜すずかけ病院リハビリテーション科, 2.聖隷クリストファー大学)

【はじめに】
 今回,家庭内役割再獲得を目指す右被殻出血による重度麻痺及び感覚障害を有する事例を担当した.回復段階に応じて事例と目標を設定し,多職種と情報共有することで家事動作獲得に至った為,本人の同意を得て報告する.
【事例紹介】
50歳代女性,夫,娘,義理両親と同居.学校の支援員として勤務し家事や子育てを行いながら生活.今回,仕事中に右被殻出血を発症.急性期病院に緊急搬送され16日後に当院回復期病棟に転院.
【作業療法評価】
本人のニーズは1・ADL自立,2・歩行獲得,3・左手が動く,4・家事ができるであった.ADLはFIM51点(運動17,認知34).座位・立ち上がり一部介助.寝返り・立位保持全介助.機能面ではBRSI-I-I,表在及び深部感覚重度鈍麻,MMSE28点,TMT―J(A63秒,B151秒)であった.
【作業療法計画】
事例と協議し最終目標を家事動作の再獲得とし,機能向上を図り早期に車椅子レベルでのADL自立を目指した.ADL監視レベル到達後に家事の再獲得に向けた訓練を行う,正のフィードバックを用いて関わることとした.回復段階に応じて段階的な目標設定を行っていくことで合意を得た.
【介入経過】
1.ADL 向上を目指した受身的な時期(1W~4W):初期は食事以外ベッドで過ごし受身的で表情の変化が乏しかった.経過とともに座位安定性及び耐久性向上.患側のブレーキ忘れ等がみられADLに監視が必要であった為,動作訓練を実施.離床機会が増え,デイルームで他患と談笑する場面が見られた.そこで,他職種と協力し病前の趣味を活用することで,離床や社会交流の促進を図った.「左手を使いたい.物を押さえたい.」と積極的な発言が聞かれた.
2.IADL獲得を希望しはじめた時期(5W~6W) :上肢機能向上に向けてIVES使用し麻痺側三角筋の随意収縮を認めた.同時に自主訓練としてミラーセラピーを1日5回開始.自助具を使用した個浴訓練を開始.ADLが車椅子レベルで自立となった段階で,目標を再設定した.事例から「3食は時間をかけてでも作りたい.調理ができれば他の家事も何とかなると思う」などの発言が聞かれ,調理の再獲得によりその他家事の安定性向上を図ることを目標とした.
3.IADLに積極的に提案した時期(6W~15W):OT室で調理訓練開始.食材を固定する事が難しく釘付きまな板を提案.また,棚へのリーチ動作が立位では不安定であった為,環境調整や工夫点について提案.事例から家族の援助を得られる箇所や生活様式を聴取.自宅環境に即した実動作訓練や具体的な環境調整を協議し事例から改善策の積極的な提案があった.
【結果】(15W)
家事動作は,環境調整や自助具使用,手順の工夫により見守りで可能.退院から2か月間は夫が休職し,家事動作を含めて自宅環境の調整や入浴介助を退院時指導書に基づいて行う予定となった.事例は,「家に帰った後の家事動作イメージがついた」「夫と協力して家事ができると思う」と具体的で前向きな発言が聞かれた.ADLはFIM117点(運動82,認知35),BRSIII‐III‐III,表在及び深部感覚中〜重度鈍麻,MMSE30点に改善した.
【考察】
生活背景から事例が重要としている家事動作に着目し,回復段階と欲求段階説(Maslow.1987)に沿って目標を協議し言語的説明をして成功体験を共有した.成功体験を段階的に積み重ねたことで(Bandura.1997),自己効力感が高まり目標設定や家事動作に関する環境調整等に関してより積極的に作業療法士と協議することができ,自宅退院に向けた不安感の減少へと繋がったと考えられる.