第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-12] ポスター:脳血管疾患等 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-12-4] 動機づけ面接を利用した遠隔作業療法にて麻痺手の使用頻度が向上した一事例

林 慎也1,2, 室澤 信志2, 笹田 哲3 (1.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科博士後期課程, 2.アール・クラ横浜, 3.神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)

【はじめに】
 脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺者)の麻痺手の使用の支援に面接が利用され(平田,2020;堀本,2021),面接技法には動機付け面接がある(Motivational Interviewing:以下,MI)(Miller,2013).MIは行動変容に対するその人自身の動機と約束を強めるための協働的な対話の対人援助理論であり「開かれた質問」「是認」「聞き返し」「要約」で構成する(Miller,2013).MIはアルコール依存症(Miller 1978),慢性疼痛(本,2021),統合失調症(國田,2018)などの報告があるが麻痺手の使用の報告はない.そのため本研究の目的は,片麻痺者の麻痺手の使用頻度に対してMIの効果を検証することである.片麻痺者にMIを参考にした面接の効果を検証するために,遠隔作業療法(以下,遠隔OT)を実施し麻痺手の使用頻度に効果がみられたため以下に報告する.研究と発表は事例と家族に書面で同意を得ている.
【事例紹介】
 右被殻出血から約2年経過した60代男性の右利きの左片麻痺者であり注意障害を呈していた.Brunnstrom Stageは3-4-3,Fugl Meyer Assessment上肢運動項目(以下,FMA)は24/66点,食事と整容以外は妻が介助していた.要介護3であり,通所リハビリテーション(以下,通所)は6時間週2回利用し,個別訓練は20分行っていた.訪問看護の理学療法(以下,訪問PT)は60分週2回行っていた.
【経過】
 通所と訪問PTともに訓練内容は,上下肢ストレッチ,下肢機能訓練,歩行訓練であった.遠隔OTは40分週1回,妻のサポートにてGoogle Meetのビデオ通話を行った.初回はAid for Decision-making in Occupation Choice for Handを利用して3つの作業 (「ご飯茶碗を持つ」「歯磨きコップを持つ」「トイレで手すりをつかむ」)を目標設定してCanadian Occupational Performance Measure(以下,COPM)で評価した.遠隔OTは毎回3つの作業をCOPMで評価し,事例自身の気づき,自主訓練の内容などをMIを参考にした面接で共有した.訪問PTの期間をA,訪問PTと遠隔OTの併用期間をB,4週間毎にABを交互に行い,A-B-A’-B’とした.A実施前はA前,A実施後はA後,B実施後はB後とした.評価は,FMA,COPM,Motor Activity LogのAmount Of Use(以下,MAL-AOU)とQuality Of Movement(以下,MAL-QOM),日本版Health Locus of Control(以下,JHLC)を使用した.
【結果】
 大きな変化点としてFMAはA前24点→A後28点→B後34点,COPMは「ご飯茶碗を持つ」遂行度A後4点→B後6点,満足度A後1点→B後4点,「歯磨きコップを持つ」遂行度A後1点→B後4点,満足度A後1点→B後4点,MAL-AOUはA前0.29→A後0.29→B後1.43,MAL-QOMはA前0.43→A後0.29→B後1.43,JHLCはA前「自分」25点「家族」28点「専門職」20点→A後「自分」22点「家族」20点「専門職」23点→B後「自分」20点「家族」20点「専門職」23点であった.
【考察】
 片麻痺者にMIを実施し,結果はMAL-AOUの臨床上意味のある最小変化量(Minimal Clinically Important Difference:MCID)0.5点とMAL-QOMのMCIDの非利き手1.1点を超え,COPMは検出可能な最小変化量の遂行度1.7点,満足度2.7点を超えた.片麻痺者がどのように作業を実現させたいか片麻痺者と支援者が共有する必要があり(北村,2019),目標や自主訓練などをMIで共有したことが効果があった要因と考える.また,健康統制感尺度は健康問題に対する統制の所在がわかる尺度であり(堀毛,1991),動機付け尺度である(吉田,2020).専門職によるMIで麻痺手の使用に変化が生じて家族統制から専門職統制に変化したため,MIは動機付けを変化させることが示唆された.