第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-12] ポスター:脳血管疾患等 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-12-6] 回復期にCI療法と複数回の面接を実施したことで家庭菜園を再開した事例

千葉 聖矢1, 渡部 祐介1, 佐藤 義朝2 (1.公益財団法人いわてリハビリテーションセンター 機能回復療法部, 2.公益財団法人いわてリハビリテーションセンター診療部)

【はじめに】今回,回復期でConstraint-induced movement therapy(以下CI療法)と複数回の面接で段階的な目標設定をした事で,行動変容を伴い家庭菜園を再開した事例を担当した.以下にその経緯と考察を交え報告する.尚,発表に際し事例に同意を得ている.
【事例紹介】70代男性.妻と2人暮らし.左利き.新聞社に定年まで勤務し,その後5年程継続雇用となった.退職後,現在まで傾聴ボランティアの事務職を週に3回行い,週末は,妻と家庭菜園をしていた.脳梗塞発症で右片麻痺を呈し,15病日後に当院回復期病院へ転院となった.
【作業療法評価】Brunnstrom recovery stage(以下BRS)上肢Ⅵ手指Ⅱ下肢Ⅵ.Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)44/66点.握力右0.0㎏左40.0㎏.Motor Activity Log(以下MAL)Amount of Use(以下AOU)0点.Quality of Movement(以下QOM)0点.Mini-Mental State Examination(以下MMSE)30/30点. ADLは歩行で自立.Aid for Decision-making in Occupation Choice(以下ADOC)復職(1/5)家庭菜園(1/5)ウォーキング(1/5)ジョギング(1/5)自動車運転(1/5)事例は「仕事はしたいが,右手を使えなければ日常生活もできない」と発言した. 初回面接時に事例と長期目標を復職とし,短期目標はAid for Decision-making in Occupation Choice for Hand (以下ADOC-H)で,Ⅰ下衣更衣Ⅱペットボトルの蓋の開閉Ⅲ洗髪Ⅳ洗体Ⅴ書字とした.
【介入方針】訓練時は,麻痺手使用と課題難易度調整の為,手関節背屈サポーターと母指対立スプリントと随意運動介助型電気刺激装置を併用し,つまみ動作が可能となった時期にCI療法を行う事とした.
【経過】入院から2週間:母指対立スプリントのみでつまみ動作が可能となった.ADLでは,麻痺手の使用は認めなかった.2週間から4週間:機能向上した麻痺手をADLへ 汎化目的でCI療法を行った.入院時,ADOC-Hで立てた目標を達成し,書字やパソコンへの文書入力も拙劣だが可能となった.事例は,「日常生活と仕事は,なんとかなりそうだ.次は爪切りとお椀を持って食事したい」と発言した.長期目標は概ね達成した.4週間から8週間(退院):作業面接時,事例は「鍬持てるかな.仕事はあと何年も続けるつもりはないが,家庭菜園はもう少し続けたい」と発言した.毎年,育てた野菜を孫に振舞っていたが,新型コロナウイルス感染拡大の影響で孫に会えない為,野菜を送りたいとの事だった.そこで,家庭菜園を新たな目標とし,多職種へ情報提供と協働を行った.
【結果】BRS上肢Ⅵ手指Ⅴ下肢Ⅵ.FMA64/66点.握力右12.0㎏左42.0㎏.MAL AOU3.5QOM3.33.ADOC復職(3/5)家庭菜園(3/5)ウォーキング(5/5)ジョギング(4/5)自動車運転(4/5)事例は「3点以上は半分以上できるという位置づけです.後はやりながら修正します.」と発言した. ADLでは,お椀を持って食事や爪切りが可能となり,園芸では,鍬やスコップ,一輪車の使用が可能となった.
【考察】復職を長期目標としたが,ADLで麻痺手を使用しない状態だった為,段階を追い無理のない目標設定が必要だった.その為,ADOC-Hで目標の抽象度を下げ,パフォーマンスの構成要素を明確化し,スプリントやCI療法等を併用した.それにより,ADLで麻痺手の使用頻度が増加した事と共に,復職に必要な書字やパソコン操作に繋げる事ができ,正の強化を図れた.そのような経過を経て,患者自身の内省が深まり,妥当性の伴った意思決定への参加が可能となり,家庭菜園という新たな目標が設定できたと考えた.回復期入院直後は,介助を受け自分の行動を統制できず,強い不安の為,主体的に目標設定が困難な場合も多い.対象者の心理を推しはかりながら,主体的にリハビリテーションに参加できるよう柔軟に手技や目標設定の時期を選択する事が大切である.