第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-2-4] 急性期脳卒中症例に対するクリニカルリーズニングを用いた作業療法の実践

茂野 湧斗1, 水村 翔1, 武田 智徳1, 國府田 剛1, 高橋 秀寿2 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉医科大学国際医療センター運動・呼吸器リハビリテーション科)

【はじめに】作業療法(OT)のクリニカルリーズニング(CR)は,「実践家が対象者への働きかけを計画し方向づけ実行し結果を振り返る思考の道筋」(Schell et al, 2017)とされ,叙述的,科学的,実際的,倫理的,相互交流的の5つの類型がある.身体障害領域のCRを用いた文献は11編報告されている(丸山ら, 2016).一方で,急性期での報告は少ないため,事例の蓄積が重要である.
【目的】急性期脳卒中症例にてCRを用いた介入により目標設定に対する満足度の向上,運動麻痺や高次脳機能の改善を認めたため報告する.本報告は患者へ口頭で説明し同意を得た.
【方法】急性期脳卒中症例を対象とした.介入方針は初回評価後の面接にてニーズを確認後,CRを用いて決定した.評価指標は身体機能評価にて, Fugl-Meyer Assessment(FMA),Motor Activity Log(MAL)を使用し,高次脳機能評価は精神状態短時間検査-改定日本版(MMSE-J),Trail Making Test日本版(TMT-J),Catherine Bergego Scale(CBS),ADL評価は機能的自立度評価法(FIM)を使用した.
【結果】本事例は70歳代男性.脳梗塞の診断にて経皮的脳血栓回収術を施行された.1病日目からOTを開始し,21回の介入を実施した.初回評価は,JCS清明.FMA:33/66点.感覚障害はなし.MAL:Amount of Use(AOU)0.8/5点,Quality of Movement(QOM)1.1/5点.高次脳機能は,MMSE-J:23/30点.TMT-J:PartA145秒,PartB135秒.CBS:自己1/30点,観察6/30点.ADLはFIM:47/126点(運動:34/91点,認知:13/35点).
生活行為向上マネジメントを用いた面接では,「またテニスがしたい」,「仕事もまだしたい」等の趣味や仕事の再開を希望する発言を認めた.叙述的CRでは「妻とテニスをして家での鬱憤をはらしている」「海外にいる孫に会うためにお金を貯めなきゃいけない」との発言から,趣味や仕事の再開は重要な作業であることが伺えた.科学的CRでは入院2週後のFIM高得点は退院時の高いADLを予測する(寺坂ら, 2007)との報告から,ADL動作の早期自立の重要性を説明し,長期目標を「妻とテニスの再開」とし,合意目標を「左手でのコップの把持」(満足度:2/10点),「立位でのトイレ動作自立」(満足度:1/10点)とした.実際的CRでは,当院が急性期病院であること,担当者の実践経験が少ないことから身体機能を重視した介入となりやすい背景があった.また,倫理的CRでは,意欲的に自主練習を実施する場面を認めたが,歩行不安定性があり転倒リスクの管理から,単独での自主練習の実施は困難であった.介入場面では道具操作課題(Hoffman, 2011)を実施した.高次脳機能面では四肢活性化(Bailey, 2002)による左半側空間無視の低減を図った.相互交流的CRでは長期目標の「テニス」を見据え,ボール操作課題を追加した.
最終評価では,身体機能にてFMA:63/66点.MAL:AOU4.6/5点,QOM:4.0/5点.高次脳機能はMMSE-J:26/30点.TMT-J:PartA74秒,PartB86秒.CBS:自己0/30点,観察0/30点.ADLはFIM:115/126点(運動:88/91点,認知:27/35点).合意目標は達成され「左手でのコップの把持」(満足度:2→8/10点)「立位でのトイレ動作自立」(満足度:2→8/10点)となった.
【考察】本事例ではFMAのMCID(10点),MALのMCID(AOU:0.5点,QOM:1.0-1.2点)を超える改善を認め(Shelton et al, 2007,Vander Lee, 1999,Lang et al, 2008),CBSにて左半側空間無視は改善を示した.CRを用いた介入は身体機能,高次脳機能の改善を図る点に加えて,患者満足度の向上を認める可能性が示唆された.一方,本研究の限界としてCRを用いたOT介入の有効性は不明である.