第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-11] 馴染みのある作業を用いて高次脳機能障害の改善を図り更衣動作が自立した脳悪性リンパ腫事例

牧野 光里, 内原 基成 (医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院リハビリテーション部)

【背景】作業を用いた介入は,高齢者の認知機能および注意機能の改善に効果をもたらす可能性があることが一症例報告で散見されている.今回,軽度の意識障害,高次脳機能障害,運動麻痺を呈した脳悪性リンパ腫患者に対し,更衣動作能力向上に向けて介入した.更衣動作の手順を適宜口頭指示で提示し適切な手順を反復練習したが,自立には至らなかった.そこで,患者にとって馴染みの作業である編み物を更衣動作練習前に実施したところ,更衣動作が自立した.本研究の目的は,今回の介入を振り返り,介入効果を検討することである.本研究は,当院臨床研究倫理審査小委員会の承認を得(承認番号:516),その後本人から同意を得た.
【対象】症例は50歳代,女性,診断名は脳悪性リンパ腫で軽度の意識障害,高次脳機能障害,運動麻痺を呈していた.身体機能は左上下肢の運動麻痺がBrunnstrom recovery stage(BRS)上肢IV-手指IV-下肢IVであり,表在・深部感覚は共に軽度鈍麻だった.関節可動域は両肩関節に中等度の関節可動域制限を認めた.精神機能は意識レベルがJapan Coma Scale(JCS)I-1からI-2,Cognitive-related Behavioral Assessment(CBA)15/30点であり意識状態の変動が動作や精神機能のむらに繋がっていた.Mini-Mental State Examination(MMSE)19点,数唱は順唱6桁,逆唱5桁だった.三宅式記銘力検査の有関係対語は7-6-6,無関係対語は0-2-3だった.上衣更衣動作はFunctional Independence Measure(FIM)3点だった. 更衣動作を行うにあたり本人の身体機能を考慮すると,(1)衣服の両袖を上腕付近まで先に通す.(2)頭部を通す.この一通りの更衣動作手順が本人のできる能力が最大となる方法だった.
【介入】適切な更衣動作手順で更衣が実施出来るように反復練習を40分間/日で10日間行った.誤りが生じた際はその都度口頭で説明し,修正を行った(A期).その次に,編み物を更衣動作練習の前に20分間/日行いA期と同様の反復練習を40分間/日で14日間行った(B期).誤りが生じた手順はA期と同様に修正した.A期初回の反復練習直前のClinical Assessment for Attention(CAT)聴覚性検出課題とA期終了時の上衣更衣のFIM,B期初回の反復練習直前の聴覚性検出課題とB期終了時の上衣更衣のFIMを評価した.
【結果】A期B期共にBRSと関節可動域に著明な変化は認めなかった.A期はCATの聴覚性検出課題で全正答数48/50,全反応数87で正答率は96%,的中率は55%だった.JCSとCBAに変化は認めなかった.更衣動作は即時効果を認めることはあったが,次の日まで持ち越し効果は得られなかった.更衣動作の改善には至らず上衣更衣のFIMは3点だった.B期はCATの聴覚性検出課題で全正答数48/50,全反応数58で正答率は96%,的中率は82.7%だった.JCS0,CBA21点になった.更衣動作は即時効果を認め,介入直後は手順通り着衣可能であり,次の日まで持ち越し効果が得られ,最終的に上衣更衣のFIMは6点となった.編み物実施中は,発話や笑顔を多く認め,本人から主体的に意見を出す様子があった.
【考察】馴染みのある作業は意識,注意,記憶の改善に寄与する可能性があると考える.意識障害は,上行性毛様体賦活系と大脳皮質広範囲の障害により生じるとされている.多重感覚刺激を同時に入力する作業を抗重力姿勢で行うことで,上行性毛様体賦活系と大脳皮質広範囲を賦活できた可能性がある.また,馴染みのある作業を行うことで快の情動に働きかけ,自律神経活動を促進し,意識の改善に繋がった可能性がある.その結果,高次脳機能障害の基盤である意識の向上が注意障害の改善に繋がり,更衣動作手順の学習を行えた可能性が示唆された.