第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-19] 損傷半球と運転補助装置の有無による脳卒中患者の運転行動特徴の差異

外川 佑1, 岩城 直幸2 (1.山形県立保健医療大学保健医療学部 作業療法学科, 2.水原自動車学校)

【背景】
 ゴールドスタンダードである実車運転評価で観察される脳卒中患者の運転行動の分析は,実務家や専門家の経験的述や意見,ケーススタディにとどまっていることが多く,運動麻痺による補助装置使用の影響についても考慮して分析した報告は少ない.
【目的】
 本研究は,教習指導員による記述コメントと実車評価得点を用いて,脳卒中患者における左右の損傷半球別および運転補助装置の使用有無による運転行動の違いを分析することを目的とした.
【方法】
 対象者は教習所で実車評価を実施した者37名とし,研究実施前の聴取に基づいて損傷半球の左・右を分類した.両側損傷や脳幹以下の病変,病変部位が曖昧である者は除外し,最終的な分析対象者は左半球損傷17名と右半球損傷13名の合計30名(年齢:61± 12歳,男性23名,女性7名)となった.聴取後,対象者は教習所での通常の実車運転評価を実施した.実車運転評価は場内走行を中心とし,①:所定の道順を教習指導員の順路案内のみで走行,②:運転技量に応じた助言指導,③:①と同様の走行を実施した.場内走行のパフォーマンスが良好の場合は公道走行も追加で実施した.全走行時間は80分程度であった.教習指導員は,実車運転評価後に対象者の運転行動の特筆すべき観察事象を記述し,さらに当該自動車学校の県内で統一されている20項目各5段階(1:不安~5:良好)評価の実車評価採点用紙にしたがって採点した.採点を行った教習指導員は5年以上の障害者の運転評価ならびに高齢者講習の経験を有している.
 統計解析は,記述的コメントについてテキストマイニングソフトウェアであるK-H Coderを用いて,同義語や特殊な複合語などの下処理後,損傷半球の左右と補助装置の有無という4通りの組み合わせ水準の外生変数をもとに対応分析を実施した.さらに,20項目の実車評価採点結果の左右損傷半球群間比較については,統計ソフトR4.2.1を使用し,Brunnner-Munzel検定を用いて比較した(αレベル:5%).本研究は,倫理審査委員会の承認を受け(承認番号:18413-200410),研究実施前に書面による同意を対象者より得て実施された.
【結果】
 対応分析の結果,右半球損傷の補助装置無群では,「左側」「安全確認」「走行位置」「停止」「道路」「中央」「脱輪」といったリスク管理,位置感覚,空間認知の文脈の関連語が抽出された.左半球損傷の補助装置無群では,「遅れる」「走行」「カーブ」「寄り」「一時停止」といったカーブや一時停止場面などでの判断・対応遅延由来のエラーの文脈の関連語が抽出された.右半球損傷および左半球損傷の補助装置あり群では,「操作」「ハンドルノブ」「練習」「ブレーキ」「様子」といった操作系のエラーを指摘する文脈の関連語が抽出された.実車評価採点結果の群間比較では,交差点時の確認時期の遅さや速度に着目した「見通しの良い交差点」の項目で,右半球損傷群よりも左半球損傷群の採点が有意に高かった(p=0.009, estimator=0.732[95%CI: 0.562-0.902]).その他の実車評価の項目における有意差は認めなかった.
【考察】
 左半球損傷および右半球損傷患者の補助装置あり群は,上下肢の麻痺による影響でハンドルノブや左足アクセルブレーキの使用に至っている可能性があり,これらの動作は一定水準の習熟が必要であるため共通して指摘を受けやすかったものと考えられる.さらに,右半球損傷患者の補助装置なし群は半側空間無視等の空間性注意の成分,左半球損傷患者の補助装置なし群は運転特有の並列処理の場面における判断遅延の成分が反映されている可能性が考えられた.