第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-4] ポスター:脳血管疾患等 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-4-9] 急性期脳卒中患者のADL自立度とCBA(認知関連行動アセスメント)の関係

佐藤 直美, 川野辺 穣, 進藤 潤也, 加賀美 夏穂, 佐々木 正弘 (地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センター機能訓練部)

【はじめに】
急性期脳卒中患者の認知機能評価は,意識障害やせん妄等様々な要因により観察評価主体となることがあり,種々の神経心理学的検査を行えないことが多い.入院後10日程度で行う多職種カンファレンス(以下CF)では,ADLを中心に帰結の判断基準に使える評価結果の提示が必要だが,急性期においてはADL自立度に影響を与える認知機能について,定量的評価が不十分となりやすい.今回認知機能の行動観察評価であるCBAを用いて,急性期介入終了時点のADLとCBAとの関係を調べ,CF時の予後予測に有用な結果が得られたので考察も含め報告する.
【方法】
CBAは森田らによって開発された患者の行動観察場面で意識,感情,注意,記憶,判断,病識の6領域をそれぞれ5点(正常)から1点(最重症)の総点30点満点で評価するもので,FIMと強い相関が示されている.分析対象は2022年7月~2023年1月に急性期病棟へ入院,病前ADL非自立者,退院時死亡,再発者,CF前に急遽退院した者を除く脳卒中患者85名とした.日本版modified Rankin Scale(以下mRS)を使用しmRS0~2をADL自立群(以下自立群),3~5をADL非自立群(以下非自立群)とした.CBAは原則担当作業療法士が病棟看護師とともに評価した.初回は発症もしくは術後5日目,以降CF日,急性期介入終了日の3時点で実施した.
解析方法は,群間差はデータに応じt検定,Mann-WhitneyU検定を用い比較した.ADL自立度に影響を与えるCF時のCBA下位項目を抽出するために,従属変数をADL自立の可否,独立変数は多重共線性を考慮し感情,病識の項目を除いたCF時CBAの各下位項目と年齢をロジスティクス回帰分析で解析した.両群のCBA総点についてはROC曲線を用いてカットオフ値を算出した.有意水準は5%未満とし,統計ソフトはEZR Ver.1.61を使用した.本研究は当院倫理委員会で承認済みである.
【結果】
年齢,入院期間は自立群で有意に低値だった.性別,病型に有意差はなかった.CBA総点,各下位項目ともに,5日目時点,CF時点,終了時点のいずれも有意に自立群で高値だった.非自立群の四分位範囲は自立群に比べ大きい傾向にあった.ロジステッィク回帰分析の結果,退院時ADL自立の可否に有意な影響を与えるCBA下位項目は意識(オッズ比0.28,95%信頼区間0.087-0.903,p=0.03)であった.ROC曲線よりCBA総点のカットオフ値は21点,感度87.5%,特異度:72.4%,AUCは0.873 (95%信頼区間 0.791 - 0.955)となった.
【考察】
各時期とも有意にADL自立群のCBAは高値であり,ADL自立群は5日目時点ですでにCBA下位項目はすべて中央値4以上,総点24点であった.回復期病棟入院患者を対象とした先行研究では,CBA重症度として総点24点は軽度に分類され,環境調整により屋内活動自立が可能なレベルとされており,急性期と環境の相違はあるが,本研究でも自立度は修正自立レベルへ至った患者が多いと考えられた.非自立群は,障害レベルにバラツキはあるが,どの時期であっても各項目中央値2~3点と低く,両群は5日目時点ですでにADLに影響する認知機能に差がある可能性が示唆された.
ADLの自立度に寄与するCF時CBA下位項目は,年齢で補正しても意識障害の回復が影響しており,ADL自立可否に影響を与える因子であると考えられた.神経心理ピラミッドで覚醒は最下層に位置し,すべての認知機能の根幹を成すものである.意識の回復が他の認知項目やADLの帰結にも影響することが示され,目標設定の一助となると考えられた.
今後は症例数を増やしADL各動作とCBAの関係について検討予定である.認知機能がADLに与える影響を分析し予後予測の精度を向上させ,チーム間での情報共有のツールとして活用できれば,早期から適切な患者支援体制の構築に寄与すると考えた.