第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-12] 失語症を呈した事例が主体的な対人交流を獲得するまで

上島 くるみ, 中村 美歌 (医療法人 三星会 茨城リハビリテーション病院)

【はじめに】失語症者は対人関係の構築や社会参加に困難が生じ,孤独感や疎外感を感じやすいとされている.今回,重度失語症を呈した事例に対し,作業活動を中心に介入したことで主体的な対人交流に至ったため報告する.尚,本報告にあたり本人と家族の同意は得ている.
【事例紹介】80代男性.X年Y月心原性脳梗塞を発症し, Y +1 月当院回復期リハ病棟へ入院.家族構成は妻,長男夫婦,孫夫婦,孫,ひ孫の8人暮らし.病前は独歩にて日常生活活動(ADL)自立しており,趣味は友人とのカラオケであった.
【初期評価】心身機能障害は,右不全片麻痺(軽度),Broca失語(中等度~重度),自発性の低下を認めた.ADLは,独歩にて入浴以外見守り.コミュニケーションは,簡単な内容であれば理解可能で,表出は単語レベルから困難であった.FIM76点(運動55点,認知21点).
【経過】[前期:入院~1ヶ月]失語症の影響により,居室に閉じこもり他者との交流を避け,スタッフからの問いかけに対して上手く話せず伝わらないもどかしさから涙を流していた.言語療法場面においても話すことに対して消極的で声が小さく,表情も硬い様子であった.そこで,病前の趣味であったカラオケをもとに,iPadにて昭和の流行歌を鑑賞し,一緒に楽しめる空間と信頼関係の構築を図った.すると,徐々に歌を口ずさむようになり表情も明るくなった.その後,スローテンポで字幕のある歌を抜粋すると,徐々に歌える単語が増えた.言語療法場面でも,声量が上がり,話すことに対する意欲の向上を認めた.また,スタッフからの挨拶に対し復唱にて「おはよう」など返答があった.
[中期:2~3ヶ月]気分転換や発声がしやすいよう,屋外でのカラオケを開始するも,思い通りに発声出来ないことに憤りを感じていた.屋外でのカラオケを継続すると簡単なフレーズは発声できるようになり,他患から称賛されると照れるように笑顔を見せた.また以前仕事として製造業を行っており,物を作ることに対しても興味を示していた.そこで,離床を目的にペーパークラフトでの籠作りを実施すると,リハ以外の時間も作業を進める様子が見られた.完成後はリハ時に持ち歩き,それを見た他患やスタッフから声をかけられると作品を見せ,頷きで返答するようになった.また,最近の出来事が伝達しやすいようアルバム作製を行った.すると,喚語困難のため自発的に伝達することは困難であったが,アルバムを使用し,ジェスチャーや単語にてスタッフとコミュニケーションをとる様子が見られた.
[後期:4~6ヶ月]家族面談にて施設方向となり,今後の生活を見据え,協調性や自己主張が出来るよう他患と一緒に模造紙サイズのちぎり絵を実施した.すると,貼り付ける場所や色・役割を話し合う様子がみられ,徐々にリハ時間以外も他患を誘って行うようになった.カラオケでは,時折声が歪むこともあるが1曲歌えるまでになり,「ばっちりだ」との発言があった.また,他患と共に歌えるよう歌詞カードを作り一緒に歌う機会を設けた.
【結果】コミュニケーションは理解や表出は短文レベルにて可能となった.また,自らロビーで過ごすことが増え, 他患と今日あった出来事についてアルバムを活用しながら談笑するようになった. FIM112点(運動85点,認知27点).
【考察】今回,重度失語症を呈した事例に対し,①参加の場を作り, 作業活動を介してコミュニケーションをとる機会を設けたこと,②コミュニケーションの代償手段を導入したことが,主体的に他者との交流を図るきっかけとなったと考える.