第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-16] 左被殻~放線冠皮質下出血で重度右上肢麻痺を呈した患者様への復職(蕎麦職人)支援

平石 武士 (医療法人社団日高会 日高リハビリテーション病院リハビリテーションセンター)

【序論】脳出血により右上肢に重度麻痺を呈した40代の症例を担当させて頂いた.症例は蕎麦職人であり,復職,独歩,右上肢の機能回復を強く希望されていた.今回,蕎麦打ち活動の基盤となる下肢~体幹の多関節運動連鎖と抗重力伸展活動の促通,上肢・手指筋群の活性化による随意性・協調性の促通,蕎麦打ちの疑似練習による技能練習,実際の蕎麦打ち練習(内部モデルの活用と環境適応)の4つの視点からアプローチした結果,当初,困難と思われていた復職に至る事が出来た為,報告する.【症例紹介】診断名;左被殻~放線冠の皮質下出血,右片麻痺.急性期病院加療し発症から1.5ヵ月後,当院に転院.〈社会背景〉独身,両親と兄夫婦が経営されている山間の老舗温泉旅館の一角にある蕎麦屋の蕎麦職人.【入院時作業療法評価】右片麻痺(Br.Stage上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅳ).右上肢の随意性乏しく手指に僅かな集団屈曲を認める程度.右肩に疼痛あり.右上下肢感覚:表在・深部とも中等度鈍麻. 脳卒中上肢機能検査6/32点.右握力 0㎏.認知面:生活上支障なし.ADL :更衣・入浴・ 杖歩行要介助,FIM:76点(MI:43点,CI:33点).【作業療法目標】蕎麦職人として仕事復帰する.〈仕事内容〉出し汁を作り,かえしと合わせる.蕎麦打ち(蕎麦粉を捏ね,麺棒で延ばし,蕎麦切り包丁で切る).天ぷら,副菜の準備,蕎麦を茹でる・天ぷらを揚げる・盛り付ける.材料の準備・購入(自動車使用)等.これらを約50食/日提供.【基本プログラム】①安定かつ効率的な(必要最小限の力で耐久性を備えた)立位の準備(足部内在筋や下肢の遠心性収縮,下部体幹のCore control,骨盤・体幹の垂直軸方向の抗重力伸展活動,足部~体幹~肩甲帯・頭頚部の多関節運動連鎖,肩甲帯周囲筋の協調性の促通等)②右上肢筋群(肩甲帯周囲筋~手内在筋)の筋長,粘弾性,アライメント,知覚-運動,随意性の促通,Reach・Grasp・両手の協調動作等の獲得練習.【応用プログラム・発症~4ヵ月)】③ セラパテやめん棒等を用いた蕎麦打ちの疑似練習(捏ねる,麺棒で延ばす,左手の包丁操作に右手で駒板を合わせる等の能動的知覚探索によるSkill Training(技能練習).【社会適応プログラム・発症~5ヵ月】④ 実際の蕎麦打ち(お店の環境を調査し,実際に使用している道具・材料で実施).経験・記憶・情動・知覚-運動等の内部モデルの活用と再学習・環境適応.【結果・退院時作業療法評価(発症後約6ヵ月)】右片麻痺(Br.Stage:上肢Ⅳ 手指Ⅳ 下肢Ⅴ) 疼痛(-),感覚:表在・深部とも軽度鈍麻,脳卒中上肢機能検査24/32点.右握力 10㎏, ADL :自宅内自立(FIM:125点 MI:90点,CI:35点).蕎麦作り:10人分を80分,立位で休憩なしで作ることが出来,「これなら大丈夫そうです」との発言聞かれた.(目標実行度 8/10,満足度 8/10).(退院後,自動車運転再獲得し,発症1年後復職に至る.【考察】今回,脳出血により重度右上肢麻痺を呈した患者様が蕎麦職人として復帰する事が出来た.高橋(2007)は,「作業療法士が,作業工程の知覚的情報を適宜提供することが出来れば,より効率的な活動の運動学習に反映される」と述べている.作業療法士が,上肢の機能再建・復職を支援する際,作業中絶えず行われている多重知覚-運動相関を推論できる知識・思考,解決する技能が重要と考える.また内部モデルの活用・修正学習を図れる環境下での支援・工夫も有用と考える.(発表にあたり,ご本人様の同意を得ております.)【引用文献】高橋栄子:食生活への支援-調理・その意義と活動-.OTジャーナル l4 (7):550-554,2007.