第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-17] 重度失調症状を呈した10代男性患者の復学へ向けた作業療法

山本 恭啓, 高多 真裕美, 山本 信孝 (金沢脳神経外科病院)

【はじめに】小脳出血により四肢・体幹に重度失調症状を認めADL全介助となった症例に対し,作業療法では姿勢保持練習に加え,環境設定により視覚的にフィードバック情報を補える上肢機能課題の提供,また,病棟では,環境調整による段階的な課題指向型訓練を自主練習として行うことで,ディマンズであったPC操作の獲得に繋げることができたので報告する.報告に際して,本人とその家族に書面にて説明を行い,同意を得た.
【症例紹介】17歳男性,高校2年生でPC部に所属,読書好きで将来の夢は図書館司書であった.X日自宅で意識障害,強直性痙攣があり,A病院へ救急搬送され,右小脳出血に対し,開頭血腫除去術施行.X +66日に当院回復期リハビリテーション病棟へ転院した.
【作業療法評価・介入計画】四肢・体幹に低緊張,筋力低下,重度失調症状を認め,僅かに四肢の抗重力運動が可能.リクライニング車椅子(以下,車椅子)にて離床するも疲労感著明でADL全介助.眼球運動障害あり.コミュニケーションは,気管切開あり,首振りにてYES/NOの表出が可能.認知機能面の低下は認めなかった.本人のディマンズとして,選択肢提示にて「復学」「PC操作や書字動作の獲得」「読書」が挙げられた.環境設定や自助具の使用にてPC操作は可能となることが予測されたため,退院時の目標を車椅子上でのPC操作の獲得とし,長期的には復学を目指すこととした.
【介入経過】介入初期は,車いす上で,上肢支持に依存的な姿勢保持となっていた.X+82日には,車椅子上での上肢操作が抗重力位にて肩屈曲90°程度まで可能となるが,チルト機能を用いて体幹を安定させた状態でもOTが提示した指へのポインティング困難で失調の影響を強く認めた.そこで,机上に肘を固定した単関節運動から実施し,視覚的なフィードバック情報が得られるよう目標を提示した.X+90日には,耐久性の向上から疲労感の訴えが減少したため,病棟でも車椅子乗車してPCでのアニメ鑑賞時間を設けた.X+117日には,五十音表を使用することで,指差しにて明確に意志表出できるようになり,PCではジョイスティックマウスを用いることで興味がある動画の選択や文字入力練習へと移行した. X+173日には,PCの設定や姿勢の環境調整にてマウス・キーボードを用いたPC操作が可能となり,X+246日に自宅退院となった.
【結果】車椅子へ乗車して日中過ごすことが可能となった.両上肢には失調症状が残存しているが,体幹の安定性を確保すること,肘置きを利用することでマウスやキーボードを使用してPC操作が可能.スマホは左手で固定,右手での操作が可能となり,家族や友人と連絡を取り合うようになった.自主練習として,読書時の本の固定やページ捲り,書字練習に取り組む.座位・立位保持には物的支持を要し,ピックアップ歩行器を使用して短距離の監視歩行が可能となった.
【考察】小脳の疾患では,内部モデルが損傷している状態で誤差検知ができないため,修正すべき情報が得られず,学習は極めて困難になる(宮口,2020)と述べている.そのため,今回の症例においても,動作学習の過程において,フィードバック情報が得られにくいことが推測された.介入として,動作を意識化できるよう言語化して伝えること,視覚的なフィードバック情報が得られるよう環境調整することに主眼を置いて取り組み,練習量の確保,本人のディマンズに沿った段階的な課題を提供したことで,PC操作が獲得できた一助となったのではないかと考える.