第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-18] 重度片麻痺患者の障害受容過程への寄り添いと目標共有のもたらす効果

宮崎 莉穂 (健和会大手町リハビリテーション病院回復期・通所リハ科)

【はじめに】近年目標設定に対する関心は高まっているが,目標設定介入において療法士と対象者間の目標の不一致等,目標共有の難しさは先行研究でも報告されている.また疾病の予後と患者のイメージする目標に大きな乖離が生じた時,臨床の場で頭を悩ませる事は少なくない.
今回重度片麻痺に加え重度感覚障害・高次脳機能障害・失語を呈し,上肢機能改善を強く願う患者を担当した.障害受容過程への寄り添いと目標共有,段階付けを行う中で,機能向上のみならずADLの質的向上・復職や障害受容にも繋がった為,考察を加え以下に報告する.
【症例紹介】30代左利きの男性.X年Y月Z日左被殻出血発症し右片麻痺出現.Z日+19日当院転入.職業住職.趣味はギターで仲間と演奏会も開催.温厚で思慮深く控えめな性格.
【初期評価】身体機能・活動の評価ではFugl Meyer assessment(以下FMA)にて49/124点,深部・表在感覚共に重度鈍麻で右側身体所有感の欠如を認めた.重度版Motor Activity Log(以下MAL)にてAOU・QOM共に0点.運動FIM18点でADL概ね全介助.高次脳機能は全般性注意障害,右半側空間無視,運動性失語,記憶障害を呈しMMSE18点.障害受容は否認~混乱期.デマンドに指でギターが弾きたい,復職したいが挙げられた.
【方法】転入時は信頼関係構築・症例の思考や価値観の確認・麻痺側機能向上を目的に①積極的発話促し②協働し取り組んでいく事の約束③麻痺側上肢管理指導(スプリント作成・ストレッチ等)④ADL場面での使用促し⑤自主練習メニュー作成・指導⑥電気刺激療法・ロボット療法等の実施.解決への努力期~受容期には,復職と趣味活動の再開を目的に①症例と共に作業工程分析②難易度に合わせ段階付け③今取り組むべき課題の明確化とスケジューリングを実施.どの時期においても症例の疑問・不安・気付きを常に確認,都度説明・共有・修正を繰り返し進めた.
【結果】FMA64/124点.身体所有感向上・運動主体感出現.重度版MALはAOU2.42,QOM2.75.運動FIM78点.入浴軽介助その他ADL自立.高次脳機能は失語の影響残存も注意機能向上認めMMSE25点.退院後は訪問リハビリへ繋ぎ早期にADL自立・復職を果たし,趣味のギター再獲得に向け取り組んでいる.
【考察】今回上肢機能改善を強く願う症例に対し障害受容過程に寄り添った.症例の思考を整理し,価値観を反映した目標に導く事を意識し介入した.設定した目標に沿って到達すべき時期を明確にスケジューリングし,共有した目標から掘り下げて症例と同等の立場で意見やアイデアを出し合い,展望的目標を目指す過程で適切に段階付けをし取り組んだ.
患者が意思決定に参加する効果として,治療への参加意欲や自己効力感,生活の質の向上等が報告されている.藤本らは「リハビリテーション分野の治療方法は,不確実性が高く,疾病や病前の生活などの背景によって個別性が高いため,患者の価値観を反映させることが大切である.」1)と述べている.目標共有を密に行い協働する事で,機能向上に向けた主体的な取り組みの定着だけでなく障害受容にも繋がったと考えられる.更に障害を受け入れながらも入院期間のみで完結するリハビリではなく,退院後もセルフマネジメントしレベルアップした目標に向かって過ごせているのではないかと考える.
なお発表に際して本症例に書面と口頭で同意を得ており当院倫理委員会の承認も得ている.また開示すべきCOIはない.
【参考文献】1)藤本修平/竹林崇編集:PT・OT・STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた,医学書院,2020,p103.
2)齋藤佑樹編集:臨床作業療法NOVA 作業療法と目標設定,青海社,2020,Vol17,No.2..