第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-5] ポスター:脳血管疾患等 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-5-8] 当院における脳卒中・脳外傷者の運転評価後の運転状況に関する追跡調査の報告

寺尾 貴子1, 冨士井 睦2, 津田 明子1, 柴田 八衣子1, 田村 陽子1 (1.兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリ療法部, 2.兵庫県立リハビリテーション中央病院リハビリテーション科)

【背景と目的】 運転による移動手段の獲得は,生活や就労の拡大,生きがいなど様々な意味を持つ.一方,脳卒中・脳外傷者の運転再開は安全の観点から懸念されることも多い.当院はリハビリセンター内にあり,1995年から同敷地内に教習コースと改造車を有し,脳卒中・脳外傷者の実車前評価と実車評価(以下,運転評価)を実施している.今回,運転評価後の運転状況を把握するため,追跡調査を実施した.本研究の目的は,当院の運転評価後の運転再開状況を把握し,安全な運転再開に必要な要素を検討することである.
【方法】 対象は,2015年4月~2019年3月に運転評価した218名であった.対象者に質問紙と協力依頼文を郵送し,同意を得られた者に記名式で回答を求めた.質問内容は,運転再開の有無,病前と発症後の運転状態,運転目的,1週間での運転頻度,1回の運転時間,事故や違反の有無を選択式で,運転再開後の工夫点を自由記載とした.分析は,当院の運転評価で運転再開「可」群と「不可」群で運転再開の有無と,事故and/or違反(以下,事故違反)の有無で群分けした.運転再開「可」群で運転再開した無事故無違反群と事故違反有群の2群間で神経心理学的検査,病前と発症後の運転目的,1週間あたりの運転時間の変化を比較した.統計学的検討は,神経心理学的結果はt-検定,運転目的,運転時間の変化はMann-Whitney検定を用い,有意水準はp<0.05とした.なお,本研究は当院倫理委員会の承認(1907)を得て実施した.
【結果】 120名の回答を得た.年齢平均は52.9歳±12.6歳であった.運転再開「可」群で運転再開し,無事故無違反は59名,事故違反有は21名であった.運転再開「不可」群で運転再開し,無事故無違反は15名,事故違反有は4名であった.21名は運転していなかった.運転再開「可」群で無事故無違反群と事故違反有群では,年齢や神経心理学的検査に有意差はなかった.次に,病前と発症後の運転目的の変化では,運転再開「可」群で無事故無違反群は,病前に比べ発症後で長距離の運転目的の機会が有意に減少し(P=0.01),事故違反有群は,短距離の運転目的の機会が有意に増加した(P=0.04).さらに,病前と発症後の運転時間の変化では,運転再開「可」群で無事故無違反群は,病前の運転時間の中央値は315分/週,発症後の運転時間の中央値は158分/週で,病前と比べ発症後で運転時間が有意に減少した(p=0.01).一方,事故違反群は,病前の運転時間の中央値315分/週,発症後の運転時間の中央値315分/週で,病前と比べ発症後の運転時間に有意差はなかった(p>0.40).無事故無違反者は「疲れたら休む」「無理のない範囲で運転する」などの工夫点の回答があった.
【考察】 運転再開「可」群で運転再開後の無事故無違反群と事故違反有群で比較し,神経心理学的検査結果に有意差はなかった.しかし,無事故無違反群は,運転再開後の運転行動で発症後は長距離運転の機会と1週間あたりの運転時間が有意に減少していた.このことから,無事故無違反を継続するには,運転距離や運転時間ともに,運転中の注意力や状況判断力なども考慮して脳疲労を起こさない程度の運転範囲内に留めることが望ましいことが示唆された.また,自己の状況を把握し,疲れたら休むなどの対処行動ができることも重要である.よって,安全な運転再開の助言指導として,運転の機会や距離を増やしすぎず,対処行動がとれるよう促すことが必要であると考える.