第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

Fri. Nov 10, 2023 5:00 PM - 6:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-9] 上肢装具と自助具の導入で食事動作が拡大した不全脊髄損傷の1症例

竹内 馨, 鈴木 卓弥, 平野 明日香, 加藤 正樹 (藤田医科大学病院リハビリテーション部)

【はじめに】
不全頸髄損傷者の上肢機能の改善は,下肢に比べて予後不良と言われている.症例は,受傷7ヶ月後も重度麻痺が残存しADL全介助であった.そこから食事動作の獲得に向けた上肢装具と自助具の導入により,食事動作の拡大が見られたので,今回報告する.
【事例紹介】
10代の女性で受傷前ADLは自立していた.体操中に転倒し,頸髄損傷による四肢不全麻痺と診断を受けた.受傷7日目にC2-5後方固定術とC3-4椎弓切除術が施行された.受傷194日目に当院に転院され当日より作業療法を開始した.前医ではベッド上の関節可動域練習中心であった.なお事例および家族に対して発表にあたり,説明し同意を得ている.
【作業療法評価】
当院転院時の受傷後194日目は, ASIA機能障害尺度C.他動ROM(R/L度)は肩関節屈曲145/150,肩関節外転160/145,肩関節外旋45/40,肘関節屈曲130/135,肘関節伸展10/15であり,MMT(R/L)は肩関節屈曲1/1,肩関節外転1/1,肘関節屈曲2/2,肘関節伸展1/1であった.表在・深部感覚ともにC6以下脱失であった.握力は右1.5kg,左は測定不能,ピンチ力は左右ともに測定不能であった.食事動作は全介助でFIM運動項目13点,認知項目30点であった.本人のニードは「ごはんを自分で食べたい」であった.
【作業療法の経過】
環境設定下で食事動作の自立を本症例との共通目標とし,水平動作や肘屈伸による上方へのリーチをサポートする上肢装具のMOMOと自助具の導入による食事動作の介助量軽減を図った.
受傷後194日目はわずかに肘関節屈曲が可能,前腕回外は困難であり,基本動作練習,上肢機能練習と,MOMO用いた物品操作を開始した.受傷後204日目には,MOMOで頸部へのリーチが可能となった.その後食事動作につなげるため前腕回内位で万能カフを使用し,すくい動作の練習から開始した.受傷後238日目には,MOMOで口元リーチが可能となり万能カフ使用での食事模擬練習に移行し自助具の調整を実施した.手指屈曲が十分に可能となったため,受傷後241日目には万能カフから太柄スプーン・フォークを使用した練習に移行した.食事場面ではワンプレートの浅皿を選択し,少ないリーチ範囲で食事ができるように工夫した.受傷後194-249日で食事動作練習は平均25.3分/日,自主トレによる上肢動作練習は平均126.9分/日実施していた.受傷後250日目には,実際の食事場面でのMOMOの使用を導入し,右上肢は乳頭の高さまでの挙上が可能となり,食事の自己摂取が可能となった.受傷後250-300日で食事動作練習は平均 27.1分/日,自主トレによる上肢動作練習は平均165.4分/日と増大しており,食事場面の時間と合わせると上肢の使用時間が大幅に拡大した.受傷後301日目には,MOMOを使用せず,太柄スプーン・フォーク,ワンプレートの浅皿を使用して食事が自立した.右上肢で口に触れることも可能となり,その後ベッド・トイレ移乗が自立し,更衣練習に移行した.MMT(R/L)は肘関節伸展のみ3/3に改善したが,他は改善がみられなかった.
【考察】
本症例は受け身な性格であったが,自動運動の範囲拡大に伴って前向きな言動が増え,積極的な自主トレに繋げることができた.受傷後7ヶ月経過していることを踏まえると食事動作の改善は厳しいと考えられるが,残存機能に合わせて入院早期からMOMOを導入し,自助具の選定や上肢の使用頻度の増大を行ったことが食事動作の自立に繋がったと考えられた.以上よりADL動作の獲得のために機能練習に限らず,道具を用いた実際の動作練習を反復することはADL能力向上に貢献できると考えられた.