第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-7-4] リハビリテーションにおける画像解析の重要性

田村 恭佑 (専門学校 健祥会学園 作業療法学科専任教員)

【序論】
 脳卒中(以下:CVA)患者の主観的垂直認知に異常を来すことが先行研究において報告されている.その中で,押す人症候群(以下:pusher症状)はCVA後にみられる姿勢定位障害であり,対象者の姿勢が麻痺側に傾き,他者が正中に戻そうとすると抵抗する現象である.この現象は,自覚的身体的垂直認知(以下:SPV)に偏位を認め,日常生活動作(以下:ADL)の回復に影響を及ぼすと報告がある.今回,CVA後pusher症状が出現し,SPVに障害を認めたことにより姿勢制御に問題を呈し,移乗動作が3人介助となっていた症例を経験した.脳画像所見から起こり得る障害機能を予測し,残存能力を活かせるよう訓練立案を行った事で移乗動作の介助量軽減を認めた.この経験は,訓練立案における画像解析の重要性を認識した事例であった為,以下に報告する.なお,本報告に際し,症例には十分に説明を行い,書面上での同意を得た.
【事例提示】
 60歳代男性,右利き.右塞栓性脳梗塞を発症し20病日当院入院し作業療法開始となった.入院時,Brunnstrome stage(以下:BRS)Ⅱ―Ⅰ―Ⅱ,感覚機能は上下肢に差はなく表在/深部ともに鈍麻であった.Scale for Contraversive Pushing(以下:SCP)において,座位・立位で合計6/6,Bruke Lateropulsion Scale(以下:BLS)は16/17点で,端座位保持は困難でありpusher症状を著明に認めた.入院時Functional Independence Measure(以下FIM)の移乗項目は1/7点であった.また,起居動作から恐怖心が強く,数値的スケールで評価した結果10/10であり,精神的要因もpusher症状を助長する因子となっていた.
【脳画像所見】
 右中心前回,頭頂連合野,島皮質,上/中側頭回に低吸収域を認めた.中でも,島皮質はpusher症状や前庭機能に,頭頂連合野は左半側空間無視やボディスキーマに関与すると考えられている.これら相応部位の損傷が考えられる事で,pusher症状やSPV障害を呈した可能性があると推察された.その反面,左半球や視覚経路に問題は見られなかった.
【経過】
 pusher症状やSPV障害により,重度介助が必要となっていると考え,これらを改善する目的で訓練立案を行った.当初,恐怖心軽減を目的に支持基底面の広い起居動作等で,目標物へリーチ動作を能動的に行える環境を調整した.徐々に恐怖心軽減を認めた段階で,端坐位訓練や起立訓練を実施した.その際,支持基底面の減少から恐怖心増悪を認めた為,後方から介助を行い接地面を調整する事で増悪を防ぐよう工夫した.また,起立訓練や歩行訓練を行う際,残存する感覚を利用する目的で近辺にベストポジションバーを設置し自覚的視覚的垂直認知や自覚的触覚的垂直認知を用いて,姿勢が変化した中でも能動的な活動が行えるよう調整した.介入35病日目,pusher 症状やSPVの改善を認めた事で,恐怖心が軽減し,移乗動作3人介助から1人介助へと改善を認めた.
【結果】
 BRSⅡ―Ⅱ―Ⅲ,感覚機能について変化はなかった.その反面,SCPは座位・立位で合計0.75/6,BLSは,8/17点へ改善し,端座位保持が可能となりSPV障害・pusher症状の軽減を認めた.FIMの移乗項目は4/7点と変化があり.精神的側面においても2/10へと改善し移乗動作に対する恐怖心は大幅に軽減を認めていた.
【考察】
 症例の症状における説明の根拠となる情報を与えてくれたのは脳画像所見であり,脳画像における解読が訓練立案に活かせ,介助量軽減に繋がったと考える.機能的脳解剖の知識は適切な訓練立案に繋がる一助と感じ,今後も有用な情報が得られるよう研鑽していきたい.