第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-2] 自己認識障害に対し,行動学的手法を用いて自己身体への認識向上を図った一例

松山 奈実, 岩本 健吾, 福井 美晴 (奈良県総合リハビリテーションセンター)

【はじめに】自己認識障害では, 周囲や自身の行動に対し客観視が困難となり,自身の能力を適切に判断できず,過大評価することが多いと報告されている(Joan Toglia,2000).今回,左放線冠梗塞を発症し,左上下肢麻痺に加え自己認識障害を認めた症例に対し,実動作訓練で自己身体への認識の促進を目的とした介入を行った.それにより麻痺手の使用頻度が向上したが,退院後の生活イメージ獲得までには至らなかった症例について報告する.尚,発表にあたり本人に書面にて同意を得た.
【事例】症例は右放線冠梗塞を発症した60歳代男性,発症から3週間で当院回復期リハビリテーション病棟に転院された.退院後は独居予定であり,ADL・IADLの獲得が必要であった.転院後2か月経過時点での評価では,Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は上肢Ⅳ手指Ⅴ,左上肢の感覚障害は認めなかった.神経心理学検査はMini Mental State Examination 30点,Trail Making TestはA:43秒,B:94秒,標準注意力検査法はカットオフ値以上,半側身体失認評価Fluff testは残数0であり,左半側身体失認は認められなかった.麻痺手の使用状況を示すMotor Activity Log(以下,MAL)は,使用頻度(以下,AOU)2.0,使用程度(以下,QOM)2.0であったが,現状の能力では困難と推測される動作においても,「やるようにしてるし,出来てます.」と発言されていた.Functional Independence Measure(以下,FIM)は運動項目43/91点であり,入院後に獲得した生活動作はセラピストが介入した項目のみであった.退院後の生活動作については「帰ってみないと分からないけど,出来ると思います.」と発言され,現状の能力からの予測が困難な可能性を認めた. この要因として,自己身体への認識低下が麻痺手の使用頻度低下に大きく関係していると推測した.そして獲得した麻痺手の機能を生活へ展開することが難しく,また未実施の生活動作に対して予測できず,独居生活において転倒リスクになると考えた.
【介入と経過】Goveroverら(2007)の行動学的手法に習い,予測・実動作・フィードバックを繰り返し行うことで自己認識障害に対して介入した.介入前期では麻痺手のみを使用する作業から介入し,麻痺手を用いた作業の予測が可能になったため,介入後期では麻痺手から延長して自己身体すべてを用いた作業である家事動作に介入した.
【結果】MALはAOQ:2.4,QOM:2.6と大きな変化はなかったが,各項目の生活場面での様子を正確に説明し,未実施の動作についても予測可能となった.FIMは運動項目79/91点となったが,家事動作訓練では問題点を予測できず,実動作後の解決策の提起に限られた.
【考察】本介入前後において身体機能はBRS上肢Ⅴ手指Ⅴと僅かに改善,神経心理学検査は一定の基準を超える改善を示さなかった.しかし,麻痺手の使用頻度が向上したこと及び麻痺手を用いた動作に対する予測的な発言を認めたことにより,自己身体への認識が向上したと考える.これは行動学的手法により自己認識の向上に有効な結果を示した報告(Goverover,2007)に近しい結果となった.Crosson(1996)の自己認識の階層を用いると,麻痺手は予測的気付きまで獲得できたことから,生活動作を予測しやすくなり,病棟内のADLに汎化出来たと考えた.一方で,IADLは体験的気付きに留まり,これは自宅により近しい環境に設定することが困難であったためであると考察した.今後は家屋訪問を実施し,退院後の生活に近い環境での介入も必要であると考えた.