第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-8-6] 重度利き手麻痺事例に対するADL・IADLへのアプローチ

大江 珠祐, 木村 亮太 (聖隷横浜病院リハビリテーション課)

【はじめに】Kwakkelらは,発症後6ヶ月時点で38%の患者に何らかの麻痺側上肢の巧緻性回復がみられたが,実質的な機能回復がみられたのは,わずか12%であったと報告している.
 一方,日々の臨床でも重度の脳卒中上肢麻痺事例の作業療法(以下OT)は難渋しており,麻痺側上肢の随意性が比較的に回復してもADLへの汎化に難渋する事例も経験している.
今回,重度利き手麻痺を呈し実生活で麻痺手を使用できない事例に対して,ADL・IADLでの実用手の獲得に向けて様々な取り組みを行った結果,麻痺手の使用頻度が向上し,自宅退院後の家事活動全般で麻痺手を継続して使用することが可能となったため,以下に報告する.尚,発表に際し書面にて同意を得ている.
【事例紹介】70歳代後半,女性,右利き.診断名は左橋梗塞.右不全麻痺を認め救急要請し当院に入院.16病日に当院回復期病棟へ転棟となった.病前生活は自立し,日中は家事全般と清掃の仕事を行っていた.
【作業療法評価】覚醒レベル,認知機能は良好で,コミュニケーションは軽度の構音障害を認めるが,言語での疎通は可能であった.高次脳機能は軽度の注意障害を認めた.身体機能は,随意性はBRS II-III-IV,筋緊張は右肩甲帯・体幹筋群低緊張,感覚機能は表在・深部共に軽度鈍麻であった.上肢機能はFMA上肢24/66,MAL AOU1.75点,QOM1.75点であった.つまみ動作時に母指に運動時痛を認めた.FIMは運動項目41点,認知項目33点で合計74点であった.性格は明るく,病棟では他患者と積極的に関わり,世話好きな印象である.麻痺手に関しては否定的な発言が聞かれた.
【経過】介入当初(回復期転棟時)はADLに参加できる随意性はなかったが,自主トレを積極的に実施していた.その後のOT経過を3期に分けて記載する.
Ⅰ期は,上肢機能の改善を目的に上肢機能練習・装具療法を中心に実施.装具療法では,対立つまみの獲得に向け,手掌面が知覚しやすい短対立装具を作製した.装具装着により母指のアライメントが修正され,母指の疼痛緩和・筋出力が向上し,つまみが可能となり,麻痺手への意識が向上した.
Ⅱ期は,ADL・IADLを中心に課題指向型練習を実施.箸の使用や洗濯畳みなど実動作練習へ移行した.
Ⅲ期では病棟生活での麻痺手の使用場面を共有した.具体的には1:病棟生活での麻痺手の使用場面を視覚的に共有し自室へ掲示,2:実際場面の問題点を明確化し代償方法を検討した.事例が麻痺手使用のタイミングを理解したことで使用頻度は向上した.
【結果】上肢機能はBRS IV-V-V,FMA46点,MALはAOU2.92点,QOM2.53点であった.FIMは運動項目83点,認知項目35点で合計118点であった.
退院後の上肢機能はBRS V-VI-V,MALはAOU3.14点,QOM3.21点であった.肩関節90度程度の範囲での家事活動全般で麻痺手を使用可能となった.
【考察】上肢機能の回復の主たる阻害因子は学習性不使用といわれており,対策として行動変容により麻痺手の使用を促すことが有効とされている.
本事例では,実用手の獲得に向けて装具療法にて手指機能の再建を図り,近位部へ段階的にアプローチしたことで空間での物品把持・操作が可能となり,使用頻度向上に繋がった.さらに,麻痺手の使用に関する取り組みを共有することで,学習性不使用に陥らずに麻痺手使用を習慣化する行動に変容できたと考える.
入院生活で麻痺手使用が習慣化されたことで,退院後も事例自身が麻痺手の使用方法を検討しながら生活を送ることができた.また,退院後のシームレスな支援として訪問リハを活用し,麻痺手を自動化段階まで運動学習を促したことで,家事活動で積極的な麻痺手の使用に繋がり,退院後の生活にも上肢・手の使用が汎化できたのではないかと考える.