第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-5] 軽度左片麻痺患者の非利き手へのCI療法とADOC-Hによって使用頻度が向上した症例

東 駿佑, 掬川 晃一, 南 裕二, 大舘 哲詩 (苑田会花はたリハビリテーション病院/リハビリテーション科)

【目的】近年,CI療法は,麻痺手の機能改善だけでなく,日常生活における麻痺手使用の行動変容を目的とした脳卒中上肢麻痺の代表的アプローチであり(竹林崇 2022),急性期・回復期・生活期の脳卒中患者に対し有効であると報告されている(平山幸一郎 2021).一方,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下,ADOC-H)は,手の使用場面の意思決定を促すアプリケーションであり,使用行動の想起を支援するものである(斉藤佑樹 2022).しかし,CI療法にADOC-Hを併用した報告は少なく,さらには利き手への効果に着目した報告がほとんどである.目的を,軽度左片麻痺患者の非利き手へCI療法とADOC-Hによって使用頻度が向上するか検討することとし,以下に報告する.
【症例】30代男性,エジンバラ利き手テストで強い右利きと評価され,診断は脳梗塞で,右側の中大脳動脈領域に高信号域を認め,病巣は拡散テンソル解析(青木茂樹 2013)にて上肢の支配領域に限局されていた.主訴は「読書を楽しみたい」で,介入前は,机上に本を置き非麻痺手のみで読書をしていた.
【方法】Brunnstrom recovery Stage(以下;Brs)上肢・手指,Fugl-Meyer Assessment上肢項目(以下;FMA),簡易上肢機能検査(以下;STEF),Motor Activity Log(以下;MAL),カナダ作業遂行モデル(以下;COPM)を使用した.研究デザインはABAB法とし,各期6日,1日40分の介入とした.介入内容は,前半10分は麻痺手の機能改善を生活に反映するための行動戦略を対象者と検討し,後半30分に反復的課題指向型練習を行い,A期はMALの項目に沿って行い,それに対してB期はADOC-Hを用いた.上記内容を,各期に評価日5日を加え発症45から73病日まで実施した.
【倫理的配慮】本報告は対象者から同意を得ており報告すべきCOIに関係する企業はない.
【結果】A期後からB’期後にかけSTEFが11点から94点,FMA運動項目が44点から66点と改善が認められた.MALのAOUは0.375点から5点,QOMは0.5から4.8点改善が認められた.A期A’期と比較しB期B’期で,よりMALの点数が向上,ADL場面に汎化することができた.COPM遂行度・満足度はB期B’期共に2点以上の向上が見られた.
【考察】Transfer packageを成功率7割に設定することが重要とされている(竹林崇 2018).失敗体験がないようADOC‐Hを使用しセラピストと対象者がイラストを用いて確認・目標設定をしていくことで,より成功体験の増加,自己効力感の向上に繋がり報酬を得やすく,麻痺手が日常的に使用できたと考える.日本語に翻訳されているものはMAL-14が主流だが,非利き手に特化した項目が少なく,フィードバックを行う際にADL場面へ汎化され辛いことが危惧される.また,文字のみの提示では非利き手を生活場面で使用するイメージが,生活場面ごとに細分化されたADOC-Hと比較し想起しにくかったと考える.そのためADOC-Hは個々の特徴を捉えやすく,目標設定シートを作成し,自己評価することでADLへの汎化を視覚化したことで使用場面の想起が容易となり,非利き手でも生活場面でA期より使用可能になったと考える.これらから,CI療法にADOC-Hを併用することで,Transfer packageを明確に提示でき,B期及びB’期で麻痺手の行動変容,STEFの大幅な点数の向上から機能改善がより変化が出たと考える.MCIDの基準によると,MALが0.5以上(Van der Lee JH 1999),COPM遂行度・満足度が2点以上(Law M 1994)である.本介入ではA期A’期と比較しB期B’期にてMALのAOU,QOM,COPMの基準を超える変化量を示せたことは,自然回復とは異なる経過を追うことができたと考える.