第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

心大血管疾患

[PB-2] ポスター:心大血管疾患 2

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PB-2-5] 支援者を含めた患者教育で生活拡大が可能であったうつ傾向の高齢心不全患者:事例報告

町田 智紀1, 柳沢 あずさ2, 小渕 浩平2, 三澤 卓夫3, 瀧澤 勉4 (1.JA長野厚生連長野松代総合病院附属若穂病院リハビリテーション科, 2.JA長野厚生連長野松代総合病院リハビリテーション部, 3.JA長野厚生連長野松代総合病院循環器内科, 4.JA長野厚生連長野松代総合病院整形外科)

【序論】高齢心疾患患者において,心理的および社会的側面にまで視野を広げて評価し,患者・家族および介護者とともに高齢者の特徴を踏まえて個々に応じた治療方針を定める必要がある(心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン,2021).今回,混合性換気障害を併発したうつ傾向の高齢心不全患者を担当する機会を得た.事例と支援者である娘は退院後の生活に不安があったが,心理的および社会的側面を考慮し,支援者を含めた患者教育を行い生活拡大が可能になったので報告する.本報告にあたり,事例から書面で同意を得ており,長野松代総合病院倫理審査委員会からの承認を得た.
【事例紹介】80歳代,女性で,診断名は心不全増悪であった.手術歴は約30年前に心房中隔欠損閉鎖術,三尖弁置換術を施行,既往歴は心不全であった.現病歴は,BNPは219.4pg/mL,LVEFは53.1%で,混合性換気障害を併発した心不全増悪のため急性期病棟に入院し,第3病日にOTを開始した.社会背景は,5ヶ月前に夫が逝去し独居であった.家事をしながら杖で自立,買い物は同市内の娘と出かけていた.要支援1でサービスは未使用だった.独居になって以降,塩分過多の簡単な調理が増加した.心不全症状出現後も受診行動を控え,1週間は無理な家事を続け過労であった.事例宅への来客者にお茶を出して会話を楽しむ近所付き合いも控えていた.
【初期評価】酸素カニューレ1L/分を使用,息切れや倦怠感等の心不全症状を認め,杖歩行は15m,運動耐容能が低下していた.PHQ-9は18点で,「夫を亡くし生活に張り合いがなくなった,近所付き合いも億劫」と訴えていた.FIMは100点であった.
【経過】[前期]医師の指示下で多職種チームの一員としてOTでは運動療法やADL練習等から開始した.初期の事例はうつ傾向で心不全症状が強く動作練習には消極的であった.OT介入を繰り返す中で,「夫と過ごした家に帰りたい,元気になったら近所付き合いを再開したい」という希望が聞かれるようになったが,事例と娘は動作時の心不全症状や退院後の独居生活に不安があった.事例と共同し,家事や近所付き合いに関して,動作の負担軽減方法の習得と支援者を含めた指導を行い可能となることを目標設定した.COPMによる,近所付き合いに関しての遂行度と満足度は1点であった.
[後期]息切れの程度が緩和した時期に,立位作業時間を増やしながら,調理や物品運搬等のIADL模擬練習を徐々に追加した.また,退院を見据えた時期に,安楽な動作指導を行い,娘には退院直後は頻回に自宅へ通い家事と近所付き合いの支援を,訪問看護師には過労の確認や疾病管理を依頼した.
【結果】第87病日に在宅酸素療法を導入し,訪問看護を利用して独居退院となった.「動作練習は役立った,苦しい時は相談できて安心」と不安は軽減,杖歩行は30m,FIMは112点で息切れは認めた.また,退院後約1年では息切れを認めるが再入院はなく,PHQ-9は13点,近所付き合いに関して遂行度は7点,満足度は10点と向上し,ほぼ毎日実施していた.
【考察】本事例は,心不全症状の不安や喪失感によりうつ傾向を呈し,家事の過労や近所付き合いを避けて生活の行動範囲が狭小化していたと考えられた.早い時期に近所付き合いの希望を明確にし,動作指導や家族支援と疾病管理支援を調整した上での患者教育が,心理的支援にも繋がり,生活行為が拡大し満足度も向上したと思われた.うつ傾向の高齢心不全患者において,急性期からのOTは,可及的早期に希望する生活行為を引き出し,心理的および社会的側面を考慮しながら,本人と支援者を含めた患者教育が生活拡大に寄与すると示唆された.