第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-1] ポスター:呼吸器疾患 1

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PC-1-1] 長期間個室隔離されたCOVID-19重症例に対する作業療法の介入

秦 健一郎, 吉川 友洋, 金谷 貴洋, 松尾 雄一郎 (独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】
 今回,COVID-19に伴う重症肺炎に罹患し,気管挿管となり長期臥床によりADL低下を認めた症例を担当した.気管切開により言語的コミュニケーションが困難となり個室で閉鎖的空間に長期入院となったことで精神的ストレスが強い状況であった.入院中に脳梗塞を発症し右同名半盲となり復職を目標としていた症例の不安は更に強まった.COVID-19重症例に対する作業療法実践ならびに経過を報告する.
【症例紹介】
 50歳代の男性.仕事は運送業.妻,娘,義母と4人暮らしで自立した生活を送っていた.勤務先でクラスターが発生しX−4日に咳嗽,倦怠感が出現.X日にPCR検査陽性反応が確認され呼吸困難感が出現し当院へ救急搬送されICUにて治療開始.既往は高血圧,糖尿病.
【経過と結果】
① 入院〜鎮静・人工呼吸器管理期間(X日〜X+14日)
 来院時はJCS2,BT39.1℃,SpO2 80%(リザーバーマスク12L/min),呼吸困難感強くHFNC50L100%に変更しSpO2 88%で経過観察.X+1日にPaO2:56.5mmHgと酸素化不良で改善が得られなかったため,気管挿管・人工呼吸器管理開始.RASS−5〜−4と深鎮静で筋弛緩薬投与となり腹臥位療法開始.人工呼吸器管理の長期化が考えられたため,X+9日に気管切開術施行しWeaningを目指しSAT開始.X+10日に自発開眼ありRASS−2.X+12日よりPT開始しMRCスコア46/60点で上肢優位にICU-AWを認めた.X+14日に人工呼吸器離脱.
② 人工呼吸器離脱後(X+15日〜X+32日)
 離脱後はHFNC50L50%で開始.痰量が多く呼吸困難感の訴えあり吸引頻回.せん妄症状みられ両上肢拘束開始.不眠,不穏ありX+17日に精神科介入し薬剤調整.X+18日よりST,X+23日よりOT開始.X+21日に一般病棟に転棟したが14日間は個室隔離継続し感染対策室の指示のもとFull-PPEで介入.看護師は必要最低限の訪室となっていた.OT初回介入時はHFNC40L50%で経鼻胃管,尿道留置カテーテル管理.従命可能だが読唇でのコミュニケーションのため伝わりにくさがあり表情は硬く,家族とも連絡ができずストレスフルな状態であった.筆談を試すがICU-AWの影響もあり上手く書けず読み手の推測が必要であった.起居動作,ADLは軽介助だったが息切れや疲労感が目立ち頻脈傾向もみられたため負荷量や精神面に注意しながら介入した.
③ 個室管理解除後(X+33日〜X+53日)
 室外でリハビリを開始.入院してから体重減少が著しくリハビリの負荷量も増えてきたため,食事に加えPT・OT介入後に栄養補助食品の摂取を開始.経過順調だったがX+38日に右側の見えにくさの自覚があり,MRIで心原性脳梗塞による右同名半盲の診断.運送業へ転職したばかりで家族とのドライブが生きがいであったため非常に落ち込み復職や今後の生活への不安が強まっていた.OTでは精神面に配慮しながら代償手段の獲得に向けて心身の回復を目指した.転院時には起居動作は自立,独歩獲得し食事は常食を自己摂取可能となり,X+53日に回復期病院へ転院した.
【考察】
 SAT開始してからは比較的早期にリハビリ介入できたが個室隔離が長期化したことで精神的ストレスが強い状況であった.特に上肢拘束された時期は後向きな言動が多く,右同名半盲となり復職や趣味の再開が難しいと感じてからは落ち込みが強まった.OTでは訴えを傾聴しスタッフ間で情報共有し安心して治療に専念できるように関わった.結果,転院時には不眠の訴えは減り,前向きな発言も聞かれるようになり独歩でADL見守り〜一部介助レベルまで改善した.