第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-2] ポスター:呼吸器疾患 2

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PC-2-3] COPMを活用したセルマネジメント教育によって行動変容が得られた一症例

大内 天輝, 樋山 晶子, 池田 拓, 杉野 裕仁 (筑波メディカルセンター病院)

【はじめに】
呼吸リハビリテーションにおけるセルフマネジメント教育では,アクションを起こすための動機や技術,自信を育てることが重要とされる.今回,慢性呼吸器疾患患者に対し,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)を活用したセルフマネジメント教育を行った結果,行動変容がなされた.以下に,その経過と若干の考察を踏まえ報告する.尚,本報告にあたり,症例の同意を得ている.
【症例紹介】
症例は70歳代の男性.息子と同居,日中は独居となるため家庭内の役割も担っていた.肺癌と特発性肺繊維症があり,在宅酸素療法を導入していた.息切れと呼吸困難を主訴に外来を受診.検査結果の末に肺アスペルギルス症と診断され,2週間の抗菌薬治療を目的に入院となった.翌日より作業療法が開始された.
【作業療法評価】
第一印象としては,多弁さはあるが社交的で明るいと感じる人柄.作業療法に対しては積極的で,酸素療法に対する理解と受け入れも良好であった.呼吸機能は,上部胸郭優位の浅呼吸,胸郭可動性に乏しく,呼吸補助筋の膨隆を認めた.病室内歩行やトイレ動作後は著明な低酸素血症と頻呼吸を認めていたが,『これくらい苦しくないから大丈夫』と,自覚症状と経皮的動脈血酸素飽和度との解離が生じていた.活動時に息こらえが生じてしまうと頻脈が出現しやすく,自覚症状として表れていた.COPMでは,「散歩」,「洗濯」,「シャワー浴」が重要な作業として選択され,特に散歩は生きがいであり『最低でも2kmは歩きたい』と強い希望が聞かれた.洗濯とシャワー浴に関しては,病前の最も呼吸困難が強い作業の一つであった.
【方針・方法】
症例は低酸素血症に対する認識が低く自覚症状に乏しいため,増悪のリスクが高い状況.加えて,活動意欲が高いため酸素の増量や活動制限はQOLの低下が懸念された.そこで,アクションプランを含めたセルフマネジメント教育を実施し行動変容を促す方針とした.まずはCOPMを基に「散歩を2㎞程度安全に行えること」,「シャワー浴や洗濯が苦しくなく行えること」を共通目標に掲げ,そのために必要な知識や技術を提供した.内容としては,疾患に対する一般的な情報と,低酸素血症の危険性を繰り返し説明.併せて,病態に適した動作方法や呼吸法を指導.特にシャワー浴や洗濯動作は呼吸困難を生じやすい作業であるため,環境にも配慮した手段を症例と共に模索し実践していった.アクションプランには,主に休息の目安となる活動時間や歩行距離,脈拍を明記し,日々の作業内容やその時の症状などを記載する日誌を活用.セルフモニタリングによって自身の病識理解を高め,どのような判断やアクションを起こせばいいかを日々症例と共有していった.
【経過・結果】
14病日に自宅退院.退院1ヶ月後の日誌を確認すると,作業遂行時に低酸素血症となる頻度の減少を認めた.また,COPM再評価では,選択された3つの作業に関していずれも遂行度・満足度ともに向上.日誌やアクションプランの活用効果を実感しており,『次はもっといい記録を持ってくる』との発言も聞かれ,自身・意欲の向上が見られた.
【考察】
今回のセルフマネジメント教育では,症例独自のアクションプランと日誌の活用により,症例自身が客観的に日々の体調を認識できたため行動変容が促されたと考える.また,COPMを活用したことで,遂行度・満足度の変化が可視化され,症例自身の意欲や自己肯定感の維持にも繋がったと考える.