第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

呼吸器疾患

[PC-4] ポスター:呼吸器疾患 4

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PC-4-2] 集中治療室からの作業療法

福原 淳史1, 佐藤 晟也2, 田中 秀樹2, 高橋 従子3, 松本 泰幸4 (1.呉医療センターリハビリテーション科, 2.関門医療センターリハビリテーション科, 3.関門医療センター看護部, 4.関門医療センター救急科)

【はじめに】
近年,集中治療室における作業療法モデルが提唱されるなど,発症早期から作業療法士が介入し,患者に意味のある作業を提供することで社会復帰へつなげる動きが推奨されている.今回,既往の肺ノカルジア症に間質性肺炎合併多発性筋炎を併発し,人工呼吸器管理となった症例を経験した.当初は人工呼吸器からの離脱は困難と予測されていたが,早期より意味のある作業を提供し,能動的な活動を惹起することで人工呼吸器からの離脱,気管切開孔閉鎖に道筋が立った症例を経験したため報告する.発表に際し患者より同意を得ている.
【症例】
60代既婚女性.ADL自立し,主婦としての役割をこなしながら生活されていた.食欲不振に伴いかかりつけの総合病院を受診,CO₂ナルコーシスを呈していたため当院に搬送され入院となる.入院当日に非侵襲的陽圧換気装着,抗生剤投与とともにIVIg開始.筋炎の治療としてプレドニゾロン15mgから開始.
【経過】
入院7日目に作業療法処方されるが努力呼吸が強く,多量の分泌物により気管内挿管の上,人工呼吸器管理となる.長期の気道確保が必要と判断され,入院13日目に気管切開施行される.鎮静剤終了となってからは意識清明,medical research council(MRC)スコア24点(上肢16点,下肢8点)であった.苦悶の表情を浮かべ,必死に何かを訴えようとされていたため,はじめにナースコール調整と筆談ができるよう設定.多量の粘稠痰があり,排痰訓練後に人工呼吸器装着下で離床開始.リハビリ以外でも家族と連絡がとれ,余暇活動ができるようスマートフォンの設定,読書やテレビ鑑賞ができるよう調整,病棟と情報共有を実施.自食できる能力を有していたが,著明なるい痩を合併しており,摂取量を安定させるために経腸栄養を併用しつつ,少量の嚥下食より自食開始.離床時間が増えた頃より,運動による生理的な換気の惹起,呼吸筋の強化,上肢の筋出力向上とともに食事動作に両手を使用できるよう耐久性向上を目的とした上肢エルゴメーターでの運動を継続して実施.入院日34日目にTピース開始され,徐々に時間を延長.排痰が今後の鍵を握っていたため,排痰法を指導するとともに食事前後など定期的な吸引を看護師に依頼することで感染兆候なく経過する.入院46日目よりスピーチカニューレで過ごすようになり,終日人工呼吸器から離脱,誤嚥の兆候なくキザミ食まで段階的に食上げし,経管,経腸栄養ともに終了.デバイスはカフ無し単管カニューレのみとなる.今後,趣味の外出や初孫に会いに行くという明確な希望を持たれるが,上肢に比して下肢の筋出力は改善乏しく,実用的歩行獲得は困難と思われ,移動の自立を目的とし,車椅子の自走訓練を開始.入院78日目のリハビリ目的の転院までに100mほどの距離を自走可能となる.主治医より,転院先に対し気管切開孔閉鎖可能と申し送りをされる.
【考察】
慢性肺疾患に間質性肺炎合併皮膚筋炎を併発し,人工呼吸器離脱は困難と予想された.悲観的な精神状態を経験しながらも家族とのコミュニケーションの確立,余暇活動の創出,キザミ食まで自食できるようになったこと等,できることが増え,希望が見出せたことが能動的な活動につながったと考える.また,徹底して排痰を促通したことで原疾患の増悪や人工呼吸器関連肺炎の合併なく,人工呼吸器からの離脱,気管切開孔閉鎖への道筋が立てられたと考える.疾患の治療だけでなく,意味のある作業を提供し,能動的な活動を促進し,しているADLを獲得していく重要性が示唆された.