第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-2] 目標の明確化と就労準備性の向上を促すことで,退院後職場復帰に至った一例

衣笠 純一1, 永井 信洋1, 錦見 俊雄2 (1.社会医療法人若弘会わかくさ竜間リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人若弘会わかくさ竜間リハビリテーション病院診療部)

<はじめに>回復期リハビリテーション病棟(以下回リハ病棟)において,外傷性頸椎損傷後にC3-C6椎弓切除と後方固定術を施行された60歳代男性を担当した.筋力低下,異常感覚,筋緊張の亢進から病棟生活は全介助だった.段階的介入により機能改善が図れADLは自立,さらに就労準備性の向上を図ったことで,退院後前職への復職へ至ったため以下に報告する.
<基本情報>60歳代男性.マンションで独居されておりADL・IADL自立.運送業として荷物の積み込み・積み下ろし・運搬業務に従事されていた.通勤中に駅階段から転倒され外傷性頸椎損傷の診断を受け,C3-C6の椎弓切除と後方固定術を施行後28病日に当院回リハ病棟へ転入院された.と認知機能はMMSE:28/30点.頸部から両手指・腰背部に異常筋緊張を認め,ROM(右/左):肩関節屈曲(110°P/140°P)外転(90°/100°),MMT(右/左):三角筋(2/3)上腕二頭筋(2/2)大腿四頭筋(3/3),握力(右/左):0kg/2kgとC3-C5領域を主体とした機能障害を認めた.FIM49/126(運動14)点であり起居動作は介助,食事の自力摂取も困難であった.段階的な機能訓練により120病日にはADL動作が概ね自己にて可能となり,復職を希望するまでに至ったが,上肢機能低下,障害特性の理解に乏しい状態であった.
<作業療法評価>(120病日)ROM(右/左):肩関節屈曲(70°/100°)外転(45°/70°)外旋(-10°/0°),MMT(右/左):三角筋(3/4)上腕二頭筋(3/4)大腿四頭筋(4/4),握力(右/左):2kg/15kg.右上肢優位にROM制限や筋出力低下に加え,四肢末梢部の異常感覚を認めていた.FIM103/12(運動68)点と病棟生活は歩行器歩行で概ね自立となったが,訓練時間以外ベット臥床しており日中の活動性は乏しく,早朝と夜間には頸部・肩関節周囲の疼痛を認めた.希望する運送業への復帰には,物品の運搬や応用歩行の安定に加え,自身の作業能力の理解など就労準備性の向上が必須であった.
<経過>(121~180病日)121病日目から両上肢の神経筋再教育,筋力増強を行うと共に,日中の活動量向上や上肢の耐久性向上を目的とした自主訓練を導入した.次第に疼痛の軽減が図れ,病棟生活は独歩により自立となった.この時期より運送業復帰に向け事例と共に業務内容や復帰方法などの詳細な目標設定を行い,職業前訓練の検討を開始した.
141病日目から物品の積み下ろしや運搬作業を開始.また病前の就業時間に合わせ,日勤帯にリハビリテーション介入と自主訓練メニューを設定し活動量の調整を行った.事例は「1日動くのは大変.仕事何ができるかな」と自身の能力に応じた復帰方法を検討するようになり,より具体的な台車や物品の運搬とその際の対処方法などの体験を進めた.「台車一台なら運べる,積み下ろしはできる」と退院後,自身で遂行可能な業務内容について職場の上司と相談を開始した.
<結果>(180病日)ROM(右/左):肩関節屈曲(80°/120°)外転(60°/90°)外旋(0°/20°),MMT(右/左):三角筋(4/4)上腕二頭筋(4/5)大腿四頭筋(5/5),握力(右/左):12kg/22kg.四肢末梢部の異常感覚は軽減し,FIM125/126(運動90)点.当院退院後は外来での作業療法介入を継続しつつ233病日には軽作業を中心とした時短勤務での職場復帰に至った.
<考察>脊髄損傷者の就業について,労働環境の調整と残存能力の活用,当事者の上司を中心とした企業との連携と理解が重要とされる.本事例においても復帰に向けた目標の明確化と,就労準備性の向上に加え,院内での様々な模擬体験を通して自身の能力と対応方法について促せたことが職場への円滑な復帰に対し有効であったと考える.