第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-4] 橈骨遠位端骨折術後の握力成績がHand20下位項目に及ぼす影響について

梶塚 裕貴, 中澤 竜太, 吉野 晃平 (上尾中央総合病院診療技術部 リハビリテーション技術科)

【はじめに】
 上肢疾患における生活満足度を評価する方法としてHand20が用いられる.栗本ら(2007)はHand20は高齢者でも理解しやすく十分な妥当性・信頼性を有した上肢障害評価法と報告している.当院にて掌側ロッキングプレート術(volar locking plate;以下VLP)施行の橈骨遠位端骨折の症例にHand20を使用したところ,術後12週にて「力仕事を精一杯できる」といった握力を必要とする事が予想される項目で最も満足度が低かった.次いで「趣味ができる」,「頭上の棚に両手で重いカバンを乗せる」の順に満足度が低かった.また,患者からは握力低下に不満を訴える事例が多い印象を受ける.以上より生活満足度の低下因子として,握力が関与していることが予想される.
 先行研究にて握力とHand20の関係性が提唱されているなか,Hand20の下位項目に焦点を当てた文献は散見されない.本研究はVLP後の症例における握力の成績がHand20下位項目に与える影響を調査した.
【目的】
 Hand20の合計得点と最も満足度の低い3項目において,握力の影響度を明らかにする.
【対象・方法】 
 対象は2021年から2022年の期間に当院でVLPを行った橈骨遠位端骨折を呈した症例29例とした.包含規準として術前の屋内ADLが自立,除外規準として術後に固定期間がある,認知機能低下のある症例に設定した.奥村(2010)はハンドセラピィの終了基準として,握力健患比は70%以上を妥当としていることから,術後12週時点で健患比70%を達成した群を達成群(17例),達成できなかった群を非達成群(12例)とし2群に分けた.統計学的処理としてHand20の合計得点,低下項目である「力仕事を精一杯できる」,「趣味ができる」,「頭上の棚に両手で重いカバンをのせる」の3項目と両群に対しMann-Whitney U testを実施した.その後,有意差のあった項目に対して Spearman’s Correlationの検定を行い関係性を調査し,有意水準は5%未満とした.本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:1085).
【結果】
 各項目の比較において,合計得点(p=0.010,r=0.486),「趣味ができる」(p=0.04,r=0.388)の2項目でのみ有意差を認めた.この2項目に対して握力健患比との相関分析を実施した結果,Hand20の合計得点では(p=0.001,r=−0.592),「趣味ができる」項目では(p=0.001,r=−0.579)と共に負の相関を示した.
【考察】
 今回の研究より,VLP後12週経過した症例における握力にHand20の合計得点と「趣味ができる」項目が影響していることが予想された.三竹ら(2018)はVLP後27週の症例において,握力と「力仕事を精一杯できる」項目に負の相関関係を示したと報告している.しかし,当院の結果では「力仕事を精一杯できる」項目に握力の影響がないことが示唆された.今回はVLP後12週時点の調査であり,握力が十分に回復していなかった可能性も考えられるが,力仕事の作業特性は個人によって多岐にわたり,握力以外にも作業に必要な指節間関節や手関節の関節可動域,術後炎症遷延化の有無なども満足度に関係する因子になると考える.そのため「力仕事を精一杯できる」項目において,握力よりさらに影響力を及ぼす因子について関節可動域や炎症所見といった視点からも調査していく.
 本研究における意義として,「趣味ができる」項目では握力との関係性が明らかになったため,橈骨遠位端骨折において最も機能回復の見込める術後12週までに握力の強化を実施することで,患者の生活満足度向上への一助になると考える.