第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-11] ポスター:運動器疾患 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-11-6] 橈骨遠位端骨折ロッキングプレート固定術早期の運動恐怖が短期成績に与える影響

白戸 力弥1,2, 五嶋 渉2, 河村 結2, 高橋 靖明2, 山中 佑香2 (1.北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.北海道済生会小樽病院手・肘センター)

【はじめに】
近年,心理的要因が橈骨遠位端骨折(DRF)の掌側ロッキングプレート(VLP)固定術後の成績に影響を及ぼす要因になる報告が散見される.この心理的要因の1つに,痛みが増悪する恐怖心から動作を回避する思考である運動恐怖がある.
【目的】
本研究では,この運動恐怖の評価尺度である日本語版Tampa Scale for Kinesiophobia(TSK-J)を用いた.先行研究のカットオフ値をもとに,VLP固定術早期のDRF患者の運動恐怖を弱い群と強い群に群分けし,運動恐怖がこれらの短期成績に与える影響を明らかにすることを目的とした.尚,本研究は後方視的に既存情報を用いて実施する研究であるため,所属施設の倫理委員会の承認を受け,研究が実施される情報を所属施設のホームページへの掲載し,研究対象者が拒否できる機会を保障した.
【方法】対象は2017年4月1日から2022年3月31日の期間にVLP固定術を施行し,術後に作業療法を実施したDRF患者92例とした.これらの術後平均2.0±2.3日目のTSK-J値をもとに,TSK-J値37点未満の運動恐怖が弱い患者群(TSK-J低値群)の38例と,37点以上の運動恐怖が強い患者群(TSK-J高値群)の54例に群分けした.診療記録より,対象者の性別,受傷時年齢,利き手,受傷側,骨折型(AO分類),尺骨茎状突起骨折の有無,受傷から手術までの待機日数,および手術からTSK-J評価までの日数を収集し,2群間で比較した.また,術後1か月と3か月時の疼痛(安静時,労作時),関節角度(手関節掌屈,背屈,橈屈,尺屈,前腕回内,回外の自動関節可動域),握力,および日本語版Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand(DASH)スコアを診療記録より抽出し,2群間で比較した.統計解析にはMann-Whiteny検定,またはカイ二乗検定を用いた.全ての統計解析にIBM SPSS Statisticsバージョン29を使用し,有意水準を5%に設定した.
【結果】性別,受傷時年齢,利き手,受傷側,骨折型,尺骨形状突起骨折の合併の有無,受傷から手術までの待機日数,およびTSK-J評価までの日数で2群間に有意差を認めなかった.術後1か月では,TSK-J高値群の労作時痛,手関節尺屈角度およびDASHスコアが,TSK-J低値群よりも有意に不良であった.術後3か月でもまた,TSK-J高値群のDASHスコアがTSK-J低値群よりも有意に不良であった.一方,その他の評価指標では,両群間に有意差を認めなかった.
【考察】本研究では,VLP固定早期のDRF患者の運動恐怖が客観的症状と機能の回復に与える影響が部分的で,かつ短期間であった.これは,DRF患者の運動恐怖が急性外傷と手術侵襲に起因したもの解釈でき,慢性的な運動器疾患患者とは異なり,運動恐怖を経験する期間が相対的に短いためと推察できる.一方,患者目線の主観がその結果に反映される患者立脚型評価法であるDASHスコアの結果より,運動恐怖が強い患者群において,少なくとも術後3か月に及び,運動恐怖が主観的な症状および機能回復に影響を与えている可能性がある.これらの主観的な症状および機能回復に対しては,近年,回復の早い段階での自己効力感を高める認知行動療法アプローチの重要性が指摘されている.VLP術後の運動恐怖の強い患者には,これらのアプローチが必要であると考えられた.
【結語】DRF患者のVLP固定術後早期の運動恐怖は,客観的症状と機能回復に与える影響が部分的,かつ短期間であるが,主観的症状と機能の改善に少なくとも術後3か月まで影響することが明らかとなった.