第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-12] ポスター:運動器疾患 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-12-1] 患側上肢の過活動を認めた橈骨遠位端骨折患者の1例

長倉 侑祐1, 西 祐樹2, 平田 康介3, 菊池 智也4, 石垣 智也5 (1.医療法人健生会 たつえクリニックリハビリテーション科, 2.長崎大学生命医科学域(保健学系), 3.医療法人香庸会 川口脳神経外科リハビリクリニック, 4.ウツミ整形外科医院 リハビリテーション科, 5.名古屋学院大学リハビリテーション学部 理学療法学科)

【はじめに】近年,脳卒中患者を対象に加速度計を用いて日常生活の上肢活動量を定量化し,フィードバック(Feedback: FB)を行うことで行動変容の促進に繋がる可能性が示されている.一方で,上肢運動器疾患患者に対する作業療法において,上肢活動量を用いた臨床報告は見当たらない.今回,橈骨遠位端骨折後に日常生活における上肢の使用状況の認識(Motor Activity Log: MAL)と患側上肢活動量との間に解離が生じ,患側上肢が過活動となることで痛みが増悪し,日常生活に支障を呈した事例を経験した.そこで患側上肢の過活動に対し,上肢活動量のFBと目標設定を通して活動量の調整を行った結果,過活動を是正しつつ活動の向上に繋がった.本報告では,橈骨遠位端骨折患者に対する上肢活動量のFBと目標設定が行動変容に与える影響について考察する.なお,本報告にあたり事例の個人情報とプライバシー保護に配慮し,説明を行った後に口頭にて同意を得た.
【事例紹介】本事例は右橈骨遠位端骨折を呈した右利きの70歳代女性である.保存的加療にて受傷後74日からOTを開始した.家事は姉の介助にて実施していたが,自主練習として自宅で患側上肢を使用することへの意識が強く,痛みを我慢して家事を実施していた.患側上肢に対して「全然治らへん」,「こんなんやともう仕事できへん」と受傷後の経過に対する不満が聞かれた.
【作業療法評価と介入】受傷後88日の手関節関節可動域 (患側)は背屈,掌屈,前腕回内,回外に制限を認めた.疼痛関連評価はVAS(運動時痛)55㎜,TSK(運動恐怖)44点,PCS(破局的思考)33点,PSEQ(痛みに対する自己効力感)14点であった.日常生活評価はQuick DASH;機能80点,仕事94点,MAL(上肢使用状況の認識);AOU2.43点,QOM2.79点であった.上肢活動量 (3‐Axis Logging Accelerometer)は3日間の活動強度別の割合と活動量の総和を算出して可視化した.結果は,MALの低値と比較して上肢活動量は健側よりも患側上肢活動量が多く,上肢活動量とMALとの間に解離を認め,患側上肢の過活動と解釈された.介入は上肢活動量のFBとADOCにて目標をセルフケア(下衣操作,トイレ動作)から家事(調理と掃除)へと段階付けを行い,GASを用いて目標に基づいた作業プログラムを実施した.
【経過】受傷後116日,目標とした患側上肢での下衣操作とトイレットペーパーをちぎることが可能となった.目標の再設定では「包丁で食材を切る」,「自宅と職場で掃除機をかけれるようになる」といった家事と仕事に関連する作業活動を目標とした.
受傷後130日では,VAS44㎜,TSK40点,PCS32点と改善は認めなかったが, 手関節関節可動域は拡大し,PSEC36点,Quick DASH;機能30点,仕事31.3点,MAL;AOU3.6点,QOM3.5点と改善を認めた.患側上肢活動量は,活動強度別の割合と活動量の総和ともに初期評価と同程度であった.本事例から「キャベツの千切りができるようになった」,「掃除機は使えている」,「仕事に行ってみる」と発言が聞かれ,目標の満足とGASの達成度の向上に繋がり,行動変容を介して日常生活活動(Quick DASH)の改善を認めた.
【考察】慢性疼痛患者では活動量のペーシングが困難となり,日常生活の活動が過活動となることで痛みの増悪に繋がる場合があるとされている.本事例は自主的に患側上肢を使用することへの意識が高く,過活動になっていると解釈された.このような事例に対し,上肢活動量のFBと目標設定を用いることは,課題の優先度の理解を促し,日常生活における患側上肢の過活動を適正化できる可能性が考えられた.加えて, 主観的評価(MAL)と上肢活動量との間に解離を認めたことから,臨床において主観的評価のみではなく,行動データを定量化した客観的評価と併用する必要性が示唆された.