第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-3] ポスター:運動器疾患 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-3-4] 回復期リハビリテーション病棟で外傷性脊髄損傷を呈したクライエントに対するCO-OPアプローチを基盤とした作業療法

原 駿介, 松澤 良平 (IMS(イムス)グループ イムス板橋リハビリテーション病院)

【はじめに】Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下CO-OP)は,作業遂行での運動技能の問題解決に向けて,対象者自身が戦略を立て,生活に般化し,さらに別の作業遂行に技能を転移することができる作業療法の介入方法である.様々な疾患で効果が示されているが,回復期リハビリテーション病棟において,成人の外傷性脊髄損傷に伴う運動麻痺及び感覚障害を呈したクライエントにCO-OPを用いて歯磨きと靴下の着脱に取り組んだ報告は見当たらない.同様の事例に対して,作業療法を展開する一助になると思われるため報告する.なお今回,発表にあたり本人に説明し,同意を得ている.
【事例紹介】A氏,50代男性.外傷性脊髄損傷により,特にC8~T1レベルを損傷し,受傷後23日で回復期病棟に入院した.妻と息子,娘の四人暮らしでホテルの調理師の仕事をしていた.上肢機能としては,ASIA運動スコア68点,感覚スコア101点,STEF右7点,左69点であった.FIMの運動52点,認知35点であり,口腔ケアと靴下の着脱に介助を要していた.A氏はまずは非利き手である左手を使って,身の回りのことを一人で行うことを希望していた.そこで,一人で口腔ケアを行うことができる,一人で靴下を着脱できることを目標に,運動技能を高めるためにCO-OPを導入することにした.
【介入】口腔ケアと靴下の着脱について,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)の遂行スコアは2.0.満足スコアは2.5だった.作業遂行の質を観察評価するPerformance Quality Rating Scale generic rating system(以下,PQRS-G)で,口腔ケアは3点,靴下の着脱は3点であった.CO-OPの標準的な方法に準じて介入した.口腔ケアにおける主な問題は,歯ブラシを把持している左手の手関節が常に掌屈位で固定されており,ブラシの角度を変えることが出来ず歯の裏側が磨けないことであった.本人が立てた戦略は「それぞれの歯に合わせて手関節を動かす」「歯の裏側を磨くために腕を上げる」などを自ら計画し行った.靴下の着脱では,A氏は受傷前,端座位にて前かがみの姿勢で靴下を履く習慣があった.しかし,前かがみが不十分でつま先に手が届かず,介助で靴下をつま先に通しても両手で靴下を引き上げられなかった.受傷前と同じ姿勢ではなく別の姿勢をとって行うことを提案したところ,本人が「足を組む姿勢で履く」戦略を立てた.引き上げについては本人が「靴下を握らずに引っかける」戦略を立てた.戦略を1つずつ試し,練習を繰り返した.
【結果】入院から一ヵ月後,作業療法時に左手を使用し口腔ケアを行えるようになり,また時間を要するが靴下の着脱を一人で行えるようになった.これらの行為が般化し,毎日の病棟生活でも実行するようになった.COPMの遂行スコアは6点,満足スコアは6点へ向上した.口腔ケアのPQRS-Gは8点へ,靴下の着脱のPQRS-Gは7点へ向上が見られた.また,口腔ケアで考えた「手首を動かす」ことが食事における箸操作などに転移が見られた.
【考察】今回,外傷性脊髄損傷を受傷し回復期病棟にて歯磨きと靴下の着脱といったADLに対してCO-OPを実施した.A氏は認知機能に問題なく,遂行可能な残存能力で行っていたが,効果的でなかった.受傷後の状態で新たにADLを遂行するためには,新たに運動技能を身につける必要があると考えられ,CO-OPが有効であったと言える.箸操作については,作業療法で取り組まなかったが,口腔ケアで身につけた技能を転移させ自己解決できていた.このことは,ADLの改善に向けて効率化になる.回復期病棟で入院日数の短縮に繋がる可能性があり,複数事例を対象に検討したい.