第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-6-2] Zone7伸筋腱断裂を伴った経舟状月状骨周囲脱臼に対する作業療法の経験

安藤 幸助1, 兵道 哲彦1, 栗原 将太1, 石坂 奈津弥1, 牛島 貴宏2 (1.株式会社麻生飯塚病院リハビリテーション部, 2.株式会社麻生飯塚病院整形外科)

【はじめに】Zone7伸筋腱断裂では条件が整っていれば早期運動療法が選択されるが,骨折や皮膚欠損などの合併があれば,3週間固定法が選択される.今回,高エネルギー外傷にてZone7伸筋腱断裂を合併した経舟状月状骨周囲脱臼症例を経験したので報告する.なお,今回の症例は,臨床経過等について既報(臨床雑誌整形外科72巻13号)であるが,本発表では作業療法的な知見を中心に報告する.また,症例には本報告に対して説明し同意を得た.
【症例】20歳代男性,仕事中にプレス機に挟まれ受傷し,救急搬送.右経舟状月状骨周囲脱臼,尺骨茎状突起骨折,Zone7での長・短橈側手根伸筋腱,示指から小指までの総指伸筋腱,示指伸筋腱断裂を認め,同日,創外固定術を施行.術後5日目に骨接合術,伸筋腱縫合術を施行した.
【経過】術翌日セラピィ開始.手関節は創外固定にて設定された背屈位,手指伸展位でスプリントを作成.セラピィは,MP関節他動内外転運動,牽引,回旋運動,DIP関節自他動屈伸運動,MP関節伸展位でのPIP・DIP関節他動屈曲運動より開始し,浮腫に対して患手挙上を徹底させた.術後3週より伸展不足に注意し,日中はPIP関節以遠を自動屈伸運動できるようにカット,PIP・DIP関節伸展位でのMP関節他動屈曲運動,MP関節他動伸展保持・自動伸展運動,回内外運動を追加.夜間はスプリントにて伸展位を継続した.術後4週で創外固定除去.術後5週でMP関節以遠を自動屈伸できるようにカットし粗大物の把持訓練を開始.術後6週より手関節自他動掌背屈運動開始.病棟ADLでは,スプリント装着下にて食事動作,整容動作,更衣動作など軽作業より開始.術後8週でスプリントはADL動作にて疼痛を伴う活動時の装着とし,夜間スプリントからカペナー・ストラップに変更.術後12週でスプリントを終日除去,ADLでの制限を解除し,手関節制限に対して,持続的他動運動,荷重訓練を開始.職場での作業を想定して,重量物は前腕支持にて運ぶなどの動作指導を行い,術後19週にて職場復帰となりリハビリ終了となった.
【結果】終了時(術後19週),% TAMは,示指97.4%,中指95.8%,環指92.4%,小指96.6%.手関節自動/他動関節可動域は,掌屈60度/65度,背屈40度/50度,回外65度/70度,回内60度/65度,橈屈15度/15度,尺屈30度/30度.握力は,21.8kgで健側比47%.VASは安静時0㎜,活動時16㎜.HAND20は19.5点.DASHはDisability13.3点,work43.8点.
【考察】本症例は, 経舟状月状骨周囲脱臼にZone7伸筋腱断裂を合併しており,3週固定法を選択した.野中らは,手指伸筋腱ZoneⅣ・Ⅴ・Ⅵ断裂修復術後に対する固定法時の後療法の工夫として,3週間の固定期間にMP関節他動内外転運動,牽引,回旋運動を行い,術後8週経過時%TAMは平均94%と良好な成績を得ている.本症例においても同様の運動実施した結果,術後8週経過時%TAMは手根部での伸筋腱癒着による腱性拘縮,手関節固定による筋性拘縮により,平均58%であったが,スプリント療法を併用し作業療法以外でもADLでの使用を促すことで,最終評価では,%TAM平均95.5%を獲得し,手関節に関節可動域制限は残存したが復職することができた.今回,3週間固定法を選択した場合でも固定期間中,MP関節他動内外転運動,牽引,回旋運動を行い,できる限り手指拘縮を最小限にとどめ,固定期間終了に伴い円滑に瘢痕組織を伸張することができた.また,骨折部の再転位に注意し縫合腱の治癒過程に合わせ,ADLでの使用を促し動作指導を行うことで職場復帰が可能となった.