第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PD-6-5] 橈骨遠位端骨折後の自己効力感と機能的能力の半年間の経過

宮里 輝1, 斎藤 和夫2, 山中 美季1, 長谷川 夏美1, 加藤 知行3 (1.医療法人財団 荻窪病院リハビリテーション室, 2.東京家政大学健康科学部リハビリテーション学科, 3.医療財団法人 荻窪病院手外科センター)

はじめに
橈骨遠位端骨折(distal radius fracture:DRF)の回復の予測には,年齢,性別,重症度など,リハビリテーションなど多くの要因が重要な役割をはたす.近年,自己効力感 (Self-efficacy:SE)が注目され,外傷後の機能的能力の重要な予測因子であることを報告している(Wylde V,2012,Archer KR,2012).しかし,SEに関するDRF術後の報告は少なく,もしこの情報が蓄積されれば,DRF術後のリハビリテーションが必要な患者の特定や情報に役立つ可能性がある.本研究では,SEの低い症例の術後6か月間の機能的能力の経過について報告する.発表に際し,すべての症例に口頭と書面で同意を得て実施した.
方法
症例は,DRF後に当院で観血的整復固定術(全例,掌側ロッキングプレート)を実施した症例で,Pain Self Efficacy Questionnaire :PSEQ日本語版が,術後2週の時点で30点未満のSEが低い者5,女性4,男性2(平均年齢67±10歳)について前方視的に調査した.調査項目は,前腕,手関節の自動関節可動域(ROM),握力の健側比,上肢障害評価表(DASH-JSSH),Patient-Rated Wrist Evaluation the Japanese version:PRWE-J について,術後2週,術後12週,術後24週で評価した.
結果
5症例の2週,12週,4週の平均±標準偏差はPSEQ(18±10,38±13,26±15点),
前腕回内(57±14,80±5,84±2度),回外(39±22,79±5,85±4度),手関節掌屈(23±11,51±6,54±7度),背屈(32±10,69±2,70±0度),握力健側比(60±16,64±18%)DASH(31±12,21±13点),PRWE(28±18,28±23点)であった.
考察
痛みについては,DRF術後のSEを調査した研究では,SEが高いグループは,SEが低い患者と比較して,女性が多く,術後12週の痛みが少ないが有意差が見られなかった.また,SEが高いグループは平均年齢が高く,術後の早期転帰が良好であったことを報告している.(Björk M, 2020).本研究では,少数ではあったが,対象者は,女性が多く,DASH,PRWEでは術後12週より24週で悪化し,痛みの項目においても,悪化した結果が示された.これは,当院では,術後2週でシーネをオフし,術後12で荷重許可し,制限の解除により活動性が多くなったため,痛みの訴えが多くなった症例が散見されたためと考える.
筋力については,SEが高いグループは,より多くのリハビリテーションを行う可能性があり,筋力の回復が良好であることが報告されている(Connoolly FR, 2014).握力の回復は,手術後12週では58%,術後24週では69%に改善した報告がある(Landgren M, 2017).本研究では,術後12週では,60%,術後24週では64%にとどまりSEが低下している症例では,積極的な手の使用が行われなかった可能性が示唆された.また,以前よりSEは,うつ病との関連が指摘され,手術後の転帰が悪いことが知られている(Kurlowicz LH, 1998).臨床診療におけるSEの評価は,目標設定やサポートレベルなどの治療をより適切に調整および個別化するために価値があり,さらなる症例の蓄積が必要あると考える.