第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PD-8-5] 人工股関節全置換術後のクライエントに対する生活行為工程分析表(PADA-D)を用いた作業療法実践

髙橋 啓1,2, 石橋 裕1, 田平 隆行3 (1.東京都立大学大学院人間健康科学研究科 作業療法科学域, 2.東京都リハビリテーション病院作業療法科, 3.鹿児島大学医学部保健学科)

【はじめに】今回,右変形性股関節症に対して人工股関節全置換術(以下,THA )を施行されたクライエント(以下,CL )を担当した.CLは,術前から疼痛や脱臼への不安表出が多く,自己効力感は低下しており,基本的日常生活動作(以下,BasicADL :BADL)に介助を依頼する等依存的であった.CLに対して,田平ら(2019)が開発した生活行為分析表(以下,PADA-D)を用いて目標志向的に作業療法(以下,OT)を実施した結果,疼痛や筋力低下は残存しながらも,不安表出は軽減し,自己効力感は向上した.また,PADA-Dで遂行困難であった排泄や更衣,移動,入浴の下位項目に改善を認め,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)の満足度・遂行度の向上も認めた.本報告の抄録は,CLが入院中であり,途中経過までの内容となるが,術後早期からの目標志向的なOTが精神面の強化や生活行為の質向上に有効であったため報告する.
【倫理的配慮】本報告に際しCLから書面にて同意を得た.
【事例紹介】CLは,右変形性股関節症と診断された70代女性である.今回,右股関節のTHAの施行ならびに術後リハビリテーションを目的に入院した.暮らしぶりは,都営団地に独居,BADL自立,手段的日常生活動作(以下,IADL)は,一部近隣の娘の協力を得ながら生活されていた.性格は,お話好きでユーモアがあり,人との関わりが好きだった.X年Y月Z日に入院し,Z+6日にTHAを施行された.
【術前評価】MMT:股関節周囲 3/4,膝関節周囲4/4,足関節周囲5/5.Numerical rating scale(以下,NRS):6/10.MMSE:25/30.HospitalAnxiety and DepressionScale(以下,HADS):不安4/抑うつ4.GeneralSelf-EfficacyScale(以下,GSES):5/16.FIM:運動75/認知30.移動:杖歩行は見守りで可能だが,歩行距離延長に伴い跛行が出現するため,座っての休息が必要であった.PADA-D:排泄15/15,食事15/15 更衣14/15 ,整容14/15, 移動9/15,入浴9/15.「痛いのは無くなってほしいけど手術も怖いわね」等の不安表出があった.
【経過:Z+13日】MMT:股関節周囲 2/4,膝関節周囲3/4,足関節周囲4/5.NRS:7/10.HADS:不安1/抑うつ9.GSES:6/16.FIM:運動67/認知30.移動:車椅子移動全介助であった.PADA-D:排泄7/15,更衣6/15,移動0/15,入浴2/15.「もう痛くて何もできないわよ」等の疼痛や不安の表出は頻度が多くなっていた.目標設定は,PADA-Dにて生活行為の現状をCLと共有し,短期目標を「排泄(満足度4/10,遂行度4/10)」や「更衣(満足度5/10,遂行度5/10)」,「移動(満足度3/10,遂行度2/10)」それぞれの生活行為の獲得とした.特に,遂行困難であった下位項目に対して目標志向的にOTを実施した.
【経過:Z+27日】MMT:股関節周囲 3/4,膝関節周囲4/4,足関節周囲5/5.NRS:2/10.HADS:不安4/抑うつ8.GSES:8/16. FIM:運動69/認知30.移動:車椅子移動短距離自走可能となった.PADA-D:排泄10/15,更衣13/15,移動5/15,入浴12/15.目標の経過:「排泄(満足度8/10,遂行度8/10)」,「更衣(満足度8/10遂行度8/10)」,「移動(満足度7/10,遂行度6/10)」.「痛みは落ち着いてきたね」や「少しできることも増えたよね,頑張ってるもの」と前向きな表出が増えてきた.
【考察】術後早期からCLに対しPADA-Dを用いて目標志向的にOTを実施した結果,目標の明確化と共有ができ,さらには分習法的なBADL練習により成功体験を積み上げられた.そのため,不安表出の減少や自己効力感の向上など精神面の強化が図れ,生活行為の質向上に繋がったと考えられた.また,COPMも,短期間ながら臨床的に意義のある最小変化量(Ohno,2021)を満たしており,THAのCLに対するPADA-Dを用いたOTは有効であったと考えられた.