第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-8] ポスター:神経難病 8

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PE-8-1] 神経難病患者への総合的な福祉用具支援サービスの必要性

池田 真紀, 米崎 二朗, 久山 圭子 (大阪市援助技術研究室)

【はじめに】神経難病による重度障がいのある人への福祉用具支援サービス(以下,AT )は,医学的・工学的な支援技術を介した具体的な問題解決とともに,心理社会的背景を含めた支援マネジメントが重要である.当研究室では,公的な事業として,地域支援サービス機関へのスーパーバイズを介したアドバイザリーサービスを提供している.その中で,福祉用具の適正処方,支援マネジメントについての指導・助言を行っているが,実際の支援サービスの状況は,OTの関心や得意分野・経験則による部分的な支援方法に偏っていたり,心理社会的背景を考慮せず単純に能力拡大だけを行えば動機づけが向上したり,自己効力感を得られると捉えていたり,介護負担軽減を最優先し本人中心でなく家族支援を重視している事例が多く,結果的に利用者の抱える多種多様な障がい構造への具体的な問題解決が図られず,利用者との協働において適正な支援プログラムが提供されていないことを確認している.
【目的】神経難病による重度障がいのある人への適正で総合的なATの考え方・すすめ方を動機づけ理論を基にまとめ,支援サービスにおけるOTの役割と機能を明確化する.
【方法】①文献調査(動機づけ理論,リハ・ATに関する先行研究,海外のATの基本概念モデル)②動機づけ理論に基づいた支援サービスの現状分析(アドバイザリーサービスにおけるモニタリング評価結果をもとにした当研究室と地域支援サービス機関の比較評価)
【結果】動機づけとリハ・ATに関する海外の5文献を調査し,いずれも心理社会的背景を含めた支援マネジメントに基づいて,利用者との協働による総合的な支援プログラムが実施されていることを確認した.また,そのためには,支援者側のコミュニケーション能力,全人間的に人への尊厳をもった関わりのできる資質,工学的な支援技術の導入も含めた具体的な問題解決を図る技術能力,社会的サポートが必要であり,リハプログラムとして,生活全般に対する総合的な取り組みが不可欠であることがATの基本概念に基づいて述べられていた.これらの理論的概念モデルをもとに,我が国における支援サービスの現状分析を当研究室との比較評価を介して行った.現状分析として,「利用者中心の支援」「動機づけ促進・向上」が多く語られているが,実際には支援サービスの内容から見て,総合的な支援サービスが提供されていることは少なく,当研究室の支援サービスで利用者と協働しながら,他の支援技術とも有益に連携することでさらなる可能性を見出せることを確認した.結果として,支援サービスの現状の5つの課題が抽出された.①障がい構造を分析し,利用者ニーズを明確化し,利用者と支援者相互に共通認識を持つこと②個々のニーズに基づいた必要な情報提供を行い,利用者と支援者相互のディスカッションのもとに支援計画を立てること③工学的技術も含めた適正な適合技術の提供と利用者自身が可能性を確認できる機会を設けること④社会保障も含めた社会的サポートを整備すること⑤利用者への心理社会的側面に対し,動機づけ理論等を基にした理論的な解釈が必要であり,支援者の関わりおいて自己分析が必要であること⑤利用者自身が「人生の地図」を選択し描くことを実現するために,支援者との協働で支援プログラムが実行されることを確認した.
【考察】OTは利用者の障がい構造・ニーズ・心理社会的要素,解決に必要となる支援技術,支援機関との連携等を内在化することが求められる.OTの役割と機能を再考し,教育プログラム等において,支援者側の資質・能力向上に努める必要があると考える.