第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-2] ポスター:がん 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-2-2] 肩関節肢位別に僧帽筋活動の変化を検証した頸部郭清術後症例

大木原 徹也1, 小泉 浩平2, 澤田 凱志1, 伊藤 慎太郎1, 牧田 茂3 (1.埼玉医科大学国際医療センターリハビリテーションセンター, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部 作業療法学科, 3.埼玉医科大学国際医療センター心臓リハビリテーション科)

【背景】頸部郭清術後には,副神経の損傷により僧帽筋麻痺を生じ,翼状肩甲や関節可動域制限が生じる(辻,2019).頸部郭清術には,副神経を合併切除する根治的郭清術以外にも,根治性を損なうことなく郭清領域を省略し副神経を温存した選択的頸部郭清術(Selective neck dissection:以下,SND)がある.副神経を温存した選択的頸部郭清術(SND)においても機能障害は31~39%で発症する(van Wilgen CP, 2004).頸部郭清術後の機能障害に対して最大筋力を考慮した漸増抵抗運動が有効とされている(McNeely, 2008).頸部郭清術後における上肢の運動時の筋活動を検証することで,リハビリテーションにおける負荷量決定の一助となるかもしれない.そこで,本研究の目的は,頸部郭清術後の肩関節自動運動時の僧帽筋の筋活動を,筋電図解析を用いて検証することとした.尚,発表に際し症例には同意を得ている.開示すべきCOIなし.
【対象および方法】対象は,喉頭がんの診断で選択的頸部郭清術を施行された70代男性.肩甲骨脊椎間距離の左右差は15mm.術後翌日から作業療法を開始した.筋電測定は第23病日に実施.筋電図は,Delsys Trigno Wireless EMG systemを使用して,術側と非術側の僧帽筋上部・中部・下部線維に電極を配置した.電極貼付後,正規化のために徒手筋力検査方法に従って各筋の最大随意収縮(Maximal voluntary contraction: MVC)を8秒間測定し,開始から3秒を除外した中間3秒を採用した.上肢運動の測定条件は自重での等尺性運動で,肩関節屈曲30度,60度,90度肢位および肩関節外転30度,60度,90度肢位において各8秒間のデータを取得した.得られたデータは開始3秒を除外した5秒間を対象に二乗平均平方根(Root Mean Square)で処理し,MVCを基準に正規化し%MVCを算出した.
【結果】%MVCを挙上角度30°,60°,90°条件の順で以下に示す.術側において肩関節屈曲では,僧帽筋上部26,21,40,僧帽筋中部14,10,12,僧帽筋下部81,90,98であった.肩関節外転では,僧帽筋上部29,41,66,僧帽筋中部14,25,57,僧帽筋下部68,77,89であった.非術側において肩関節屈曲では僧帽筋上部61,67,62,僧帽筋中部41,42,44,僧帽筋下部41,44,64であった.肩関節外転では,僧帽筋上部65,62,70,僧帽筋中部42,67,45,僧帽筋下部41,42,39であった.
【考察】本研究は,頸部郭清術後に副神経麻痺が生じた僧帽筋出力を筋電図解析にて検証した.その結果,術側肩においては,屈曲,外転時ともに僧帽筋上部・中部に比し下部の%MVCが高い結果であった.副神経障害では肩の挙上初期の下方回旋が強く現れる報告(三浦,1994)がある.この要因は僧帽筋麻痺により翼状肩甲を呈し肩甲上腕リズムが崩れる機序を成すことから,本結果も同様であったと推察する.また,筋電図解析では僧帽筋下部のMVC低下が著明で,相対的に%MVCが高値となった可能性がある.筋力強化には40%MVC以上の強度が推奨されている(末松,2017).我々の結果を基に練習立案すると,術側僧帽筋上部では肩関節屈曲90°,外転60°以上,中部では外転90°,下部では挙上運動全可動域において,自重での筋力強化が最適かもしれない.一方,非術側においては,全条件で約40%MVCを超える結果であり,自重での挙上でも運動負荷は高まることが考えられた.この現象は,術側の僧帽筋出力低下に伴うアライメント異常が非術側に影響するか,即ち非術側僧帽筋への手術の影響を明確にするために術前後の比較など,手術前後での筋電測定による検証は今後の課題である.