第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-3] ポスター:がん 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-3-1] 患者に寄り添った作業療法とは

中山 みゆき1, 谷口 恵美2 (1.川崎医科大学総合医療センターリハビリテーションセンター, 2.川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター)

【序論】治療場面において患者の意志が反映される事は重要であり,QOL向上に繋がる.現在,インターネット等で様々な情報が入手可能であり患者の選択肢も増加しているが,医療従事者が病気になった場合,専門知識があるが故の迷いや,遠慮した消極的選択をしてしまう可能性もある.今回,PCUで亡くなられた医療従事者が卵巣癌の治療経過の中で再発・病的骨折等を経験しながら在宅生活及び就労を継続した症例を経験したので報告する.なお発表については患者の没後,家族に文書で説明し同意を得た.
【目的】経時的に状態が変化していく中,専門職としての尊厳を尊重しながら患者主体の作業療法アプローチの1例を提示する事.
【症例紹介】最終介入時,60歳女性.死亡時-7年3か月:他院にて卵巣癌を指摘.経過中,再発・転移を認め他院にて卵巣・子宮・S状結腸切除術施行.死亡時-4か月まで化学療法・放射線治療を中心に約7年3か月施行.治療経過中も地方中核病院にて病棟師長・外来師長として定年まで就業.
【経過】死亡時-5年3か月:肝転移増大・骨盤転移を認め勤務先病院より当院紹介.外来化学療法実施.職場では外来に配置転換.死亡時-2年2か月:骨盤病的骨折のため当院初回入院.作業療法開始.疼痛回避目的のADL指導と福祉用具導入後,自宅退院し復職.「辞めた方がいいと思うけど,いてくれって言ってくれるから頑張ってみる」と話す.死亡時-1年3か月:肝転移・多発骨転移の再発,下肢痛増強し2回目入院.両側下肢の浮腫を認め前回入院時より動作能力低下し,かろうじて屋内杖歩行が可能.「職場でも家でも出来ない自分にイライラして,職場では我慢できるけど夫に当たり散らしてしまう」と落ち込みあり.自分の予後を「辛いけど夢みたいな事は言っていられない.出来るだけ家で頑張りたい」「料理がしたい・自分で風呂に入りたい」とはっきりしたデマンドがあり,それを目標に作業療法実施.目標達成のためにしなければいけない事の理解良好で努力を惜しまなかった.座位での調理及び玄関・浴室・トイレの環境整備後,自宅退院.デスクワークをメインに復職後,60歳を迎え定年退職.「定年になって寂しいけど,迷惑をかけなくてよくなったから嬉しい」と話す.死亡時―3か月:骨盤骨折・帯状疱疹の疼痛増強.疼痛コントロール目的で当院PCU入院(3回目入院).「自宅に帰りたい,トイレまでの移動が出来るようになりたい」の希望で作業療法実施.ゆっくり短距離のみ歩行器歩行,夜間はポータブルトイレ使用でADLは修正自立し,自宅退院.死亡月:疼痛コントロール目的でPCU再入院(4回目入院).「申し訳ないから出来る範囲で自分で肢位変換が出来るようになりたい」の希望あり.腹部~下肢にかけて浮腫著明で呼吸苦あり.疼痛緩和目的でのポジショニング,下肢に対するマッサージ等,本人の可能な内容で作業療法実施.「話を聞いてくれて,その時だけでも少し動けるから嬉しい」と話すが徐々に体動困難となる.入院9日目,永眠.
【考察】がん患者の場合,はっきり予後や現状の説明がされない事も多く,どれくらいの期間・スピードで自分が動けなくなるのか予想がつきにくい.そのため,具体的デマンドが聞き出しにくく患者・治療者間の目標設定にずれが生じる事がある.本症例は職業柄,病状・自分の状況が理解出来ていた事,障害受容が出来ていた事からデマンド・ニーズの解離が少なかった.より具体的で現実的なデマンドだった事で,患者主体の目標設定かつOTから見て妥当と思われるニーズへのアプローチが出来,患者に寄り添え,患者もセラピストも満足が行く治療が出来たと考える.