第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-5] ポスター:がん 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-5-4] 消化器がん術後患者おける精神的苦痛に影響する要因の検討

堀越 晃子1, 近藤 健2, 深澤 旭1, 阿部 真也1, 中村 純1 (1.SUBARU健康保険組合太田記念病院リハビリテーション部, 2.群馬パース大学リハビリテーション学部)

【はじめに】
 消化器がん術後は,術後の身体への適応困難や活動制限に直面することにより,精神的苦痛が生じやすい(藤田ら,2001).消化器がん術後患者に対し,身体的側面だけでなく,精神的側面への介入が求められる(Sharma et al, 2007).しかしながら,作業療法介入の糸口となる評価を用いた精神的苦痛の要因は十分に検討されていない.本研究の目的は,消化器がん術後患者への作業療法介入に役立つ情報を提示するために,術後の初回評価を用いて退院時の精神的苦痛を予測することである.
【方法】
 包含基準は,消化器がんの診断を受け手術を施行し,作業療法を処方された患者のうち,初期評価,退院時評価共に苦痛と支障の寒暖計(DIT),NRS pain,FIMの評価が可能であった患者とした.がんの既往がある患者,認知症の既往がある患者,入院前にADLが低下している患者は除外した.初期評価は手術後3日以内,退院時評価は退院3日以内に実施した.入院前のIADLは,FAIを用いて,初期評価の時点に聴取し,食事の支度,趣味,仕事の役割の有無はFAIの該当項目が3点の場合に有りとした.退院時DITつらさ,退院時DIT支障を従属変数とし,退院時DITつらさ,退院時DIT支障と相関関係を認めた変数,精神的苦痛と関連が報告されている年齢,性別,がんの進行度を独立変数として,重回帰分析を実施した(Stepwise法).同じ評価法からの予測を避けるために,退院時DITつらさの予測するための独立変数から初回DITつらさを除き,退院時DIT支障の予測するための独立変数から初回DIT支障を除いた.有意水準は5%とした.なお,本研究は研究実施施設の倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
 対象は78名(年齢中央値:73.0歳,男性49名,女性29名)であった.FAIは26.0点であり,食事の支度,趣味,仕事を行っていた患者は,それぞれ38名,36名,24名であった.退院時DITつらさを予測する因子として,初回FIM cognitive(β= -0.281,p = 0.008)が抽出された.退院時DIT支障を予測する因子として,初回FIM cognitive(β = -0.281,p = 0.009), 初回DITつらさ(β = 0.279,p = 0.008),食事の支度の役割(β = 0.227,p = 0.030)が抽出された.各変数間の多重共線性は認められず,調整済み決定係数はそれぞれ0.076,0.224であった.
【考察】
 初回FIM cognitiveの低下は退院時DITつらさ及びDIT支障に影響していることが明らかになった.FIM cognitiveの低下は,入院中の円滑なコミュニケーションに影響し,精神的苦痛に影響する可能性があり,作業療法士が評価したコミュニケーション能力を他職種と共有し,患者に対する情報の伝え方や,理解度の確認方法を統一することが望まれる.また,入院前の食事の支度の役割は,退院時のDIT支障に影響することが示された.食事の支度の役割を担っていた患者に対しては,食事に関連した指導を作業療法プログラムに組み込む必要性が示唆された.