第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-6] ポスター:がん 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-6-3] リンパ節移植術前後に自己管理の確立に重点をおいた複合的治療を行い, 良好な結果になった症例の報告

坂巻 和, 竹田 恵利子, 渡久地 政志, 櫛田 幸, 大森 まいこ (独立行政法人 埼玉病院)

【はじめに】
国際的な見解としてリンパ浮腫に対する標準的治療として複合的治療(complex physical therapy : CPT)が推奨される.が,リンパ節移植(vascularized lymph node transfer : VLNT)実施時期のCPTを中心としたリハビリテーション(以下リハ)に関する報告は見当たらない. 今回, リンパ浮腫に対してVLNTを行い,自己管理確立に重点をおいたリハを行う経験を得たため, 考察を加えて報告する.
【症例】
症例は, 卵巣がんによりX年に手術及び化学療法を実施. 術後に両下肢のリンパ浮腫を呈した. 国際リンパ学会分類ではⅡ期後期の組織の線維化がみられ, 圧痕がみられなくなる浮腫を認めた.
【リンパ浮腫治療経過】
X+1年3カ月形成外科よりリハ科に紹介, 集中排液,自己管理の確立を目的として5日間入院し,リハ施行した. 圧迫療法, 運動療法, 日常生活指導を実施. 圧迫着衣は,日中は右下肢に多層包帯, 左下肢に平編み弾性ストッキング, 夜間は両下肢に平編み弾性ストッキングを装着した. 著明な改善が得られず, X+1年8カ月リンパ管静脈複合術(lymphaticovenousanastomosis:LVA)施行, 入院中手術前後にリハ施行. 圧迫着衣は前回入院時と同様. 包帯の自己装着練習も実施. しかし改善は得られず, 他院にてリンパ節移植(vascularized lymph node transfer : VLNT),を行うこととなり, 手術前後に外来リハを行った.
【VLNT前後のリハ】
LVNT前は4回は, 圧迫下での運動療法による集中排液と圧迫方法の自己管理の再確認を行った.手術直後は創部の離開がありリハは行わなかった. 創部が治癒傾向となった2か月後よりCPTを実施し, 圧迫方法などの自己管理の再確認を行った. また圧迫着衣に関しても確認の上, 術前と同様のものを装着することとした.
【結果(術前/術後)】
右下肢の周径(cm) : 膝上20cmが56. 0/54. 0, 膝上10 cmが50. 8/49. 0, 膝下10 cmが39. 2/36. 6, 足関節が22. 2/22. 2, 足背が23. 0/22. 0
スポンジによる固さ評価(6(固い)4(中間)2(柔らかい)):大腿6/4, 下腿6/4, 足部6/6
JIKEI LYMPHEDEMA ASSESSMET SCALE;JLA-Se(0:最も悪い~100:最も良い):機能:80/80感覚:20/50美容:20/20苦痛:50/50むくみのない状態と比較した総合的な評価:40/50
ADL : 元々ADL自立. 入浴時の洗体動作に関して, 長座位にて実施していたが, 足組みが可能となり椅子座位にて足組みでの洗体動作が可能となった.
【まとめおよび考察】
VLNT前後で, 周径は, 膝上20cm, 膝下10 cmで2cm以上の改善, 固さは大腿および下腿にて改善, JLA-Seでは, 感覚および総合的な評価で改善を認めた.
VLNTに関して, 秋田らは, 保存治療をプラトーになるまで術前に施行することはきわめて重要であり, また創部離開などのリスクを有するため, 十分な配慮が必要であると述べている. 症例は,術前に2回の入院リハを行い, 浮腫の状態は安定していた. 創部の離開により術後の経過は難渋したが, 術前より自己管理が確立していたことにより自己での創部管理が出来た.また外来診察による慎重な経過観察の元適切な時期に外来リハにてCPTを実施できたことが, 一定の改善につながったのではないかと考えられる.