第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-7] ポスター:がん 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PF-7-1] 若年の悪性脳腫瘍患者に対する作業療法

鈴木 陽太, 寺島 有希子 (日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院医療技術部リハビリテーション科)

【はじめに】
今回,悪性脳腫瘍を発症した若年の症例に対し,回復期と終末期において介入した.回復期では,身体機能,精神面の変化に着目し,終末期には,家族とも関わりながら在宅介護に向けた支援を行った.若年の悪性脳腫瘍患者への長期的な視点を持った作業療法(以下OT)について考察を交えて報告する.報告にあたり書面にて本人より同意を得ている.
【症例紹介】
20代男性.独居.転職活動中.診断名は退形成性星細胞腫.X-1ヶ月頃より右片麻痺を認め,X日に他院で開頭腫瘍摘出術施行.X+14日当院でのOT開始.X+15日より化学療法,放射線療法開始.6週間の治療後に自宅退院.X+2年5ヶ月,意識障害を呈して入院.終末期OT開始.
【経過】
回復期:X+17日,GCS:E4V5M6,右BRSⅡーⅣーⅣ,STEF1点,FMA40点,BI60点.X+30日頃より治療の副作用による体調不良,睡眠障害が見られ,病棟では臥床傾向となり,同時期より「自分では良くなっているのかわからない」「もう生きることがどうでも良くなった」などの悲観的な発言が聞かれた.退院後の生活についての不安,将来に希望が持てない悲観的な思いを傾聴し,症例に関わる医療スタッフ全員と共有した.また,上肢機能の改善について一緒に確認して伝えた.X+40日頃より,睡眠障害,副作用の軽減を認め,「手が使えるようになったら料理がしたい」「旅行に行きたい」と前向きな発言が聞かれた.X+42日,右BRSⅢーⅣーⅤ,STEF15点,FMA52点,BI90点であり,上肢機能,ADLの改善を認めた.病棟では自発的に好きな活動をして過ごすようになった.放射線治療終了後は自宅退院方針であったため,退院後の生活を見据え,利用可能な公的支援についての紹介,四肢機能改善のための自主トレ指導を行い,X+59日に自宅退院した.
退院後も化学療法のため定期的に当院通院継続.毎回リハビリ室へ来室し,「箸と包丁が使えるようになった」「旅行に行けて嬉しかった」などの報告が聞かれた.その後再発を繰り返し徐々に病態が進行.
X+2年5ヶ月,意識障害を呈して入院.GCS:E3V1M4,右BRSⅡーⅡーⅢ,両側四肢の筋緊張亢進.BI0点.首の動きでわずかにやりとりが可能.基本動作は最大介助.家族の希望に応じ,自宅退院を目指す方針となった.症例には臥床による合併症予防,家族の介護負担軽減目的として,離床,関節可動域訓練を実施.家族に対しては,普段は面会制限のために症例の姿を見られないため,来院した際に,車椅子乗車時の写真を渡したり,訓練時の症例の様子を説明した.家族からは「車椅子に乗れたことを知らなかったです」「元気なときはいつもリハビリを頑張っていたので,こういう姿を見られて良かったです」と言われた.X+2年6ヶ月,自宅退院.退院時には拘縮,誤嚥性肺炎の合併は認めなかった.2週間後,自宅で逝去.その後家族から連絡あり,家族で良い最期が過ごせたと報告を受けた.
【考察】
がん患者では様々な心理的反応が生じるが,症例は若年特有の強い喪失感があることを念頭に置き,回復期OTでは傾聴と正のフィードバックに努めた結果,本人の活動の幅を広げると共に,入院中だけでなく退院後まで継続した関係性を構築することができた.そのことが終末期での家族との関わりにおける基盤となったと考えられる.一連の経過において,患者にとって精神的な支えとしての存在になることは,作業療法の重要な役割である.