第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

内科疾患

[PG-1] ポスター:内科疾患 1

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PG-1-2] 好酸球性筋膜炎により上肢機能障害を呈した症例に対する作業療法

小池 菜月1, 渡部 喬之1,2, 佐野 太基1, 大木 亜紀1, 嘉部 匡朗1,2 (1.昭和大学横浜市北部病院リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】好酸球性筋膜炎とは血中好酸球が増加し,筋膜に好酸球浸潤を伴う炎症性疾患である.原因は不明だが,激しい運動などが発症に関与する.臨床症状として,四肢遠位の浮腫と筋膜の肥厚により関節の柔軟性が喪失し,関節拘縮を主とした上肢機能障害が好発すると報告されている(橋口昭大,2022).診療ガイドラインにおいて,リハビリテーションは四肢の拘縮改善に有用であると示されているが,作業療法介入の報告は少ない.今回,前腕遠位の皮膚硬化により上肢機能障害を呈した,好酸球性筋膜炎症例を担当した.ステロイド治療と並行して作業療法介入を行ったことで,可動域制限が改善し病前の上肢機能を再獲得できたため報告する.本報告に関連し,開示すべきCOIは無い.
【症例紹介】症例は,30代の右利き女性であり,生活歴は主婦業に加え,学校給食の仕事をしていた.帯状疱疹神経痛が出現し,翌月前腕の腫脹と疼痛,手指の痛み,拘縮も徐々に出現し近医整形外科を受診して経過観察となった.4か月後に症状増悪し,当院へ入院となった.MRI検査では前腕筋の筋膜に炎症所見が指摘され,両側前腕の筋膜肥厚や高信号を示した.入院4日目から作業療法介入開始となった.臨床検査所見では7病日目に好酸球数が530/μlと増加を認め,免疫グロブリンIgG値は3406㎎/dlと上昇していた.9日目に表皮から筋膜・筋肉表層まで一塊した生検を施行し,10日目からプレドニゾロン50㎎の治療を開始した.なお,対象者には本発表について同意を得ている.
【初期評価】両側前腕,手指に皮膚硬化があり,手関節や手指の運動に伴いNRS5の疼痛を認めた.関節可動域(右/左)は前腕回内85°/85°,回外90°/90°,手関節掌屈55°/50°,背屈60°/65°,PIP関節伸展は左右ともに,Ⅱ指-30°,Ⅲ指-20°,Ⅳ指-20°,Ⅴ指-10°であった.両上肢の握力は右13.4kg,左11.4kgであり,ペットボトルのキャップ開封やボタン,包丁動作が困難であり,生活動作に影響を及ぼす上肢機能障害を呈していた.
【作業療法介入と経過】介入方針として,過負荷に細心の注意を払いながら,好酸球性筋膜炎で好発する関節拘縮を予防し,上肢機能の改善させることを念頭に置いて介入した.作業療法は1日20分,週5日実施した.炎症所見が残存する介入初期(入院4日目~)は,前腕遠位の温浴後に低負荷の筋リラクゼーションと,単関節ごとにマイルドな可動域訓練を実施した. 26日目にプレドニゾロンの減量を開始し,同時期には入院生活で箸の操作やペットボトルキャップの開閉動作が可能となった.しかし,長時間の箸操作やパソコン操作で易疲労性を認めた.臨床検査所見では好酸球数が110/μlと減少し,免疫グロブリンIgG値は1917㎎/dlと増加は認めなかった.これらの所見から,伸長痛が軽度伴う負荷での可動域訓練,負荷量を調整した筋力訓練へ移行した.36日目には,疼痛はNRS0と軽快した.関節可動域(右/左)は,手関節掌屈65°/70°,背屈70°/70°,両手指PIP関節伸展は,Ⅱ指-5°,Ⅲ指~Ⅴ指0°と改善した.握力は右20.7kg,左22.1kgであり,箸操作や日中のパソコン操作時の耐久性が向上した.ご本人からも「病前と同じくらいに戻った」との発言が聞かれた.プレドニゾロンの減量に伴い39日目に自宅退院となった.
【考察】好酸球性筋膜炎の症例に対し,ステロイド治療と並行した作業療法により,可動域,筋力が向上し,上肢機能の改善が得られた.介入の負荷量は,疼痛や皮膚硬化の程度,血液データなどから慎重に判断することが重要であると考える.好酸球性筋膜炎に対する作業療法介入の報告は少なく,今後症例を集積していく必要があると考える.