第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

内科疾患

[PG-2] ポスター:内科疾患 2

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PG-2-3] 糖尿病教育入院を繰り返す対象者への生き方に対する行動変容を促す作業療法介入

成田 雄一1, 藤崎 公達2, 毛利 悦子3, 中山 裕美1, 馬場 玲子4 (1.医療法人 光陽会 関東病院リハビリテーション科, 2.医療法人 光陽会 関東病院糖尿病内科, 3.医療法人 光陽会 関東病院栄養科, 4.医療法人 光陽会 関東病院看護部)

【緒言】高齢化社会において内部障害を有する対象者は増加傾向にあるが,特に糖尿病においては,様々な合併症が高頻度で発生することが知られている.今年度の診療報酬改定にて,運動器リハ料の対象疾患のうち,運動器疾患に糖尿病足病変が追記された.このことにより,糖尿病を有する対象者への積極的な介入が望まれるが,糖尿病療養指導チームの中には作業療法士は配置されていないことが多く,評価・介入の専門性が活かせていないことで多職種への啓発不足や卒前卒後教育が不十分などの問題がある.欧米では体系化された作業療法プロトコール(REAL Diabetes)の報告があるが本邦では存在していないのが現状である.糖尿病療養指導は一般的に知識教授型で行われることが多く,多職種での行動変容支援を行っているが,実際の生活場面では疾患コントロールに苦慮することも少なくない.今回,教育入院を繰り返す対象者に対してOT介入による精神・心理的な評価・支援や実際の生活圏内での支援内容について報告する.なお,本演題発表に際し対象者及び家族への説明・同意を得ている.また,当院倫理審査委員会の承認を得た.
【症例情報】50歳台,男性,糖尿病罹患歴16年.他院で内服治療をしていたが母親が他界し,パニック障害とうつ病を発症,通院を中断,症状も悪化したためインスリン導入の教育入院となった.退院後の経過は生活習慣(食事,身体活動量,精神心理面)の行動変容が困難で血糖コントロールが不良となり2回目と3回目の教育入院を行った.経過として疾患コントロールの改善と悪化を繰り返しており,今回, HbA1c の悪化やCKDステージG4となり4回目の教育入院となった.
【介入内容】糖尿病教育入院から外来診療に作業療法プロトコール(BEST Program:Behavior modification,Empowerment,Self-management,Target)を活用してPAIDや精神心理面の評価,QOL評価から得た精神心理面の状態と対象者と共に外出を行い家屋も含めた実際の生活環境場面を評価した.問題点として1日4合の米飯,野菜の摂取不足,清涼飲料水の過剰摂取,不規則な生活リズム,腎障害への知識不足,家屋状況や周辺環境は聴取していた内容と現状の相違があった.その結果を糖尿病支援チームカンファレンスにて情報共有を行い,生活リズムと食行動の変容,生活環境の改善を共有目標とし,管理栄養士と共に食生活の知識教育と買い物から調理まで実際に行った.また,生活環境改善に対して家族や地域資源への情報共有を行い支援の協力を依頼した.
【結果と考察】PAID,MTDLP,QOL,体重,BMI,HbA1cが改善した.行動変容は食事内容や生活リズムの獲得,活動性の向上がみられ,行動や計画が具体的かつ実践的であった.知識教授型の療養指導だけではなく,心理行動的な課題遂行型での指導を行うことで成功体験を強化して行動変容に導く機会となった. また,実際の生活環境や場面の評価・支援を通して,対象者が行っている生活の現状を知る機会となり,指導内容との乖離が大きい場合は継続困難となる.また,対象者からの聞き取りだけでは不十分であり,医療職だけでなく様々な支援者を含めた多職種協同での評価・支援の重要性を再認識した.作業療法士の支援する行動変容とは,単に生活様式の変容ではなく「生き方を変容すること」が重要となる.
【結語】今回のような実際の生活圏での介入は,人的・時間的な問題により困難な場合が多いが,OTの評価・支援を活用することで多職種での実践的な行動変容を導くことが出来る. 今後,糖尿病療養支援の在り方の一つとして継続的に実行可能か検討していく.