第57回日本作業療法学会

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ポスター

内科疾患

[PG-2] ポスター:内科疾患 2

Sat. Nov 11, 2023 10:10 AM - 11:10 AM ポスター会場 (展示棟)

[PG-2-4] 血圧変動を認める透析患者に対してADL能力の向上を目指した作業療法の実践

細川 雄平1, 大森 裕樹2, 白井 健太2, 江 菜摘2, 清水 保臣2 (1.社会福祉法人 関西中央福祉会 平成リハビリテーション専門学校, 2.医療法人 恵泉会 堺平成病院)

【目的】今回,血圧変動を認める透析患者に対するADL能力の向上を目指した作業療法を展開する機会を得たため,以下に報告する.
【対象】65歳女性.身長155㎝,Dry weight43.5㎏.安静臥床時の血圧は収縮期(以下,SBP)90~100mmHg,拡張期(以下,DBP)60~70mmHg.45年前より透析療法を開始.透析アミロイドによる手根管症候群や破壊性脊椎関節症を呈し脊椎固定術を施行される.入院後は,血圧変動によりベッド上生活が中心で,食事は右手で箸を操作するが,手関節の動きが不十分で,時折食べこぼしがあった.長時間のヘッドアップ座位が困難で口に運ぶペースが速い傾向にあり,誤嚥のリスクがあった.認知機能面はMMSE30/30点であった.なお,本学会の発表において堺平成病院の倫理審査委員会の承認(承認日:2022年12月26日)ならびにご本人に書面にて同意を得ている.
【方法】座位保持における血圧調整機能の向上,食事・更衣動作における上肢機能の向上を目標とした.作業療法プログラムでは,週3回平均2.9単位上肢を中心としたアプローチを行った.機能的アプローチは,上肢リーチング,つまみ訓練,積木積み訓練,ボール把持訓練.応用的アプローチは,平ゴムを使用した袖通し練習,疑似的な上衣着脱練習とした.
【経過・結果】端坐位保持では,SBPとDBPともに20~40mmHg低下し,「目の前が真っ暗になる」と訴えがあり,医療用弾性ストッキングを着用するも褥瘡が発生し,中止となった.介入初期はヘッドアップ30~40度で上肢へのアプローチを開始した.
食事は,医師や栄養士と連携し,本人の好きな食材に変更し,8~10割摂取可能.BMI18.1→18.5,ALB値も2.0g/dL未満から2.7g/dLまで改善し,現状のまま経過観察となった.病棟看護師と連携し,食事後,おむつ交換時までベッドアップ15度保持に設定.また,腹腔内圧を高める目的でマックスベルトを装着し,離床時の血圧低下を予防につとめた.介入5週目より本人のDemandである上衣の着脱練習を開始し,平ゴムを3つ連結した袖通しアイテムや,ポリ袋製の前開きシャツを用いて袖通しの応用的練習を中心に行った.結果,上肢・母指ROM(右°/左°)は,肩関節屈曲85/60→125/100・外旋55/25→70/60,前腕回内40/40→70/55,手関節掌屈40/50→50/35・背屈20/30→30/40,母指掌側外転40/50→50/50.GMT(右/左)は,肩関節屈曲3/3→4/3,肘関節屈曲3/3→4/3,前腕回内・外2/2→3/3と改善を認め,食事において箸の操作性が向上し食べこぼしもなくなった(FIM5→6点).修正Borg指数は5から4となり,誤嚥のリスクなく経過した.上衣着脱(FIM1→2点)は確立しなかったが,「肩が動かしやすくなった」と前向きな声が聞こえるようになった.
【考察】本症例は,透析合併症により幾度と再入院を繰り返す度にADL能力が低下しており,今後,できることを増やすことで生活範囲を拡大できると仮定した.佐野智行ら(2015)は,「内部障害を併存した重複障害を呈した方へのOTの役割として,ADLにおいて,動作や作業の細分化,動作スピード,姿勢,環境を患者の状態に合わせ工夫し指導する」1)と報告しており,血圧変動に注意しつつ動作を行うための姿勢の確保や,動作スピード,必要な動きを獲得するために種々の道具を用いた反復動作がADL能力向上の効果につながったと考えている.また,多職種と連携し,栄養サポートや血圧変動に向けた介入も相乗作用として寄与した可能性が考えられた.
【文献】1)佐野 智行,他:「心腎連関」と作業療法―当院における心腎連関に考慮した実際の作業療法の取り組み.OTジャーナル49(12):1168-1175,2015.