第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-10] ポスター:精神障害 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-10-4] 大学生と高校生における精神障害者に対する親近感とスティグマの違い

北爪 茜1, 高坂 駿2 (1.久喜すずのき病院, 2.群馬医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法専攻)

【序論】これまでの研究では,精神障害者との接触体験は大学生(Crismonら,1990)や医学生(北岡ら,2001),一般住民(大島ら,1989)の精神障害者に対する態度を肯定的にすることが報告されている.しかし,高校生を含む一般住民や精神科病院・病棟勤務者は,精神障害者に対する社会的距離が大きいという報告もある(北岡ら,2001).本研究では,精神障害者との接触体験は当事者に対する親近感を高める,また,スティグマを低減させると研究仮説を立て,作業療法学生,高校生を対象にアンケート調査・分析を行った.
【目的】精神障害者との接触体験に伴う,作業療法学生と高校生の当事者に対する親近感やスティグマの度合いの差について明らかにする.
【方法】A大学作業療法専攻の1~4年生130名とB高等学校の生徒71名のうち, 174名を対象に,WEB上で無記名のアンケート調査を実施した.調査内容は,基本情報(性別・年齢・学年),過去5年間における精神障害者との接触体験の有無,接触体験があった者にはそのきっかけと精神障害者に対する親近感,Linkスティグマ尺度であった.大学3・4年生を高学年群,大学1・2年生を低学年群,高校生を高校生群とし,3群間のLinkスティグマ尺度の合計点の差をKruskal-Wallis 検定を用い検討した.なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得ており,研究説明に同意の得られた者のみを対象として実施した.
【結果】過去5年間に精神障害者との接触体験があった者の割合は,高学年群では97.1%(34/35名),低学年群では38.0%(27/71名),高校生群では7.3%(5/68名)であった.また,高学年群と低学年群において接触するきっかけとして最も多かったのは「実習等の授業」であった.精神障害者に対する親近感について,「覚えている」「どちらかというと覚えている」と回答した者の割合は,高学年群で79.4%(27/34名),低学年群で87.5%(21/27名),高校生群で80.0%(4/5名)であった.Linkスティグマ尺度の合計点は,高学年群が31.7±4.0点(Mean±SD)と最も高く,次いで,低学年群28.2±4.7点,高校生群27.1±6.6点となり,高学年群と高校生群間(p<.001),高学年群と低学年群間(p=.003)で有意差を認めた.
【考察】本研究の結果,精神障害者との接触体験は,当事者への親近感が深まる一方で,スティグマの度合いも高める可能性があることを示唆した.先行研究では,接触体験が医療従事者のスティグマを高める背景として「当事者の病気を知りすぎているために精神障害者を職業的には受け入れても個人としては避けようとする態度をとろうとする(大井,1970)」ことが指摘されている.本研究でも,臨床実習等で精神障害者との接触体験をした作業療法学生は,当事者を受け入れる姿勢は持ちつつも,その経験から長期入院の現状や社会的な受け入れといった精神障害者の生活の困難さを知り,スティグマの度合いが高まった可能性があると考える.本研究では,スティグマを高めた要因について質的に検討しておらず,今後,接触の有無や頻度の他にも「どのような接触体験をしたか」を明らかにすることで,接触体験がスティグマに及ぼす影響やスティグマを軽減する方策を更に検討できると考える.また,親近感については,特に高校生群でサンプルサイズが小さく,結果に偏りが生じた可能性があるため,統計上,分析に耐えうるサンプルサイズを確保することも課題である.