第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-11] ポスター:精神障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-11-1] 15年間作業療法士として寄り添った1人の統合失調症患者との歩み

木納 潤一1, 堤 茉子1, 松本 裕二1, 坂井 一也2 (1.秋津鴻池病院リハビリテーション部, 2.星城大学リハビリテーション学部作業療法学専攻)

【はじめに】筆者は15年間統合失調症患者の事例(以下,A氏)を支援した.本報告では,15年間におけるA氏と筆者の変化を振り返り,精神科作業療法士(以下,OTR)としての支援の在り方を検討する.本報告について事例から同意を得ている.
【事例紹介・作業療法評価】40代後半,男性,統合失調症.製薬会社に務め,30代半ばで結婚し,妻と双子の娘と4人で暮らした.30代後半,仕事のミスがきっかけで不定愁訴が出現.40代半ば,体感幻覚や被害的思考が出現し,精神科初回入院.40代後半,仕事でストレス過多となり,行方不明になった.警察に保護され,2回目の入院.警察が自分を捕まえにきているという不安と焦燥が強く,「警察来ていませんか?」と一日中怯え叫んだため隔離されたが,症状は好転しなかった.A氏は仕事に価値を置いて熱心に働き,余暇活動としてフォークソングのコンサートを楽しんでいた.
【介入経過と結果】
40代後半~50代前半<閉鎖病棟>
 筆者は担当OTRとしてA氏の不安を軽減するために毎日個別で関わった.A氏は再び家族と暮らすことを望んだ.保護室内でA氏は「警察来てない?」と訴え手を震わせながら音楽鑑賞,籐細工などに取り組んだ.介入終了時には,筆者の退室を必死に拒み,一日中筆者の名前を大声で叫んでいた.結局,離婚が成立した.
50代前半~50代半ば<精神科デイケア(以下,DC)>
 入院療養では症状の改善が見込めず,チームで退院を調整し両親との3人暮らしが始まった.筆者は担当OTRではないが,A氏の来院時には訴えを傾聴した.A氏はDCルームで過ごさず,一日中「警察来てない?」と院内を尋ね回っていた.2年後,夏祭りの司会に抜擢されると,DCルームでメンバーと原稿の作成に取り組むようになった.A氏は見事に司会をやり遂げ,以後DC行事運営の中心的存在として活躍した.
50代半ば~50代後半<作業所>
 A氏は仕事で培った経験を作業所で活かすようになった.引き続き筆者はA氏の来院時に話を傾聴し,A氏は自ら立案した焼き菓子の販売計画を筆者に詳しく説明した.自ら営業し,道の駅で出店すると店頭に立ち,生気溢れる表情で「幸せです.満足しています.」と話した.しかし,50代半ば,作業所の仕事に意気込みすぎたためか,内服中断により攻撃性が増し,作業所通所は中止となった.筆者はDCへ配属され,DCで活気なく過ごすA氏に寄り添い続けた.
50代後半~60代前半<療養病棟>
 A氏は母親との口論が絶えず再入院し,同時期に筆者は療養病棟に配属され,担当OTRになった.A氏は先天性股関節症の悪化による歩行障害が進行し,「退院は無理だ.」と悲観的になっていった.筆者は身体リハビリに加え,A氏とのギター弾き語りをして,希望を持てるよう励まし続けた.そして支援チームでグループホーム(以下,GH)への入居を調整し,GHスタッフとの面談や退院前訪問を実施し,A氏は「早くスマホを使ってみたい.」と話した.A氏はGHで平穏に暮らすことを望むようになり,筆者はGHと精神科訪問看護スタッフ,家族に支援を引き継いだ.
【考察】「警察来てない?」の訴えが根強く残る状態での退院について,当時の筆者は正しい選択とは思わなかったが,退院したからこそDCや作業所で活躍でき,入院当初とは違う幸せを感じるきっかけになった.A氏と歩んだ15年間には,環境や身体の変化により,目標に向かって前進するときもあれば,目標を見失い立ち止まるときもあった.OTRとして,対象者の歩調に合わせ,細く長く寄り添うことの大切さを学んだ.