第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-11] ポスター:精神障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PH-11-7] 統合失調症の行動特性に配慮したスモールステップの設定により援助希求行動と認知機能改善が見られた症例

浜田 実瑠1, 北田 有沙1,3, 大類 淳矢2,3, 藤田 周平4 (1.東香里病院, 2.大阪河﨑リハビリテーション大学, 3.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科, 4.東香里第二病院)

【はじめに】統合失調症においては,認知機能障害の影響による生活障害が存在する.また行動特性として,状況変化への脆さ,慣れるのに時間がかかる等が挙げられる(昼田,1988).その影響から普段と異なる困った状況において混乱しやすく,他者に援助を求められずに過ごし,さらに失敗体験を繰り返す.今回,この状況に陥った統合失調症患者に,作業活動内でのスモールステップを意識した介入を行った結果,認知機能障害や援助希求行動に改善が見られたため報告する.本発表については対象者に説明し同意を得ている.
【症例紹介】A氏,70代女性,統合失調症.Ⅹ-24年に飛び降り,X-23年に希死念慮でA病院に入院.グループホームに退院するが1年後に再度飛び降り入院.他患者とのトラブルから転倒し左大腿骨頸部骨折をきたし当院整形外科に入院.金銭的理由等により転院を経て,内科的理由によりX年に当院に再入院.精神科転棟と同時に作業療法処方となった.
【初期評価】認知機能をBrief Assessment of Cognition in Schizophrenia(以下,BACS),リカバリープロセスを評価する日本語版Recovery Assessment Scale(以下,RAS)により評価した.BACSは「言語性記憶」が-2.19,「ワーキングメモリ」が-0.36,「運動技能」が-4.41,「言語流暢性」が-1.67,「注意」が-3.72,「遂行機能」が-2.93であった.RASは総点が93/120点,下位項目では「目標/成功志向・希望」は37/45点,「他者への信頼」は19/20点,「自信をもつこと」は19/25点,「症状に支配されないこと」では6/10点,「手助けを求めるのをいとわないこと」は12/20点あった.実際の作業療法場面では,自ら選択した活動であっても些細な失敗により「帰ります」「辞めたい」と訴え作業が続かなかった.特に認知機能障害が強く,言語的な説明への理解が十分ではなかったため,作業活動を通して適切な援助希求行動をとれる,また行動特性に配慮した上でスモールステップを細かく設定し,少しずつ成功体験を積み重ねるプログラムを提供した.
【介入経過】OTR誘導の下適切な援助希求行動を模倣する時期:フェルト生地によるバラ作りを実施した.OTRはA氏の困り感を汲み取り,具体的に何に困っているのかをOTRから提示した上でA氏から表出してもらうように介入した.具体的には,ボンドがフェルト生地以外の机や自身の体に付着した際に「ボンドが机について困っているのですね」などの声をかけるようにした.
少しずつ作業内容の変化をもたせ援助希求行動を自ら行う時期:フェルト作業内で縫うという工程を繰り返し練習し,その要素を持つ刺し子作業に移行し,刺し子作品のサイズを大きくし,さらに鞄作りへと作業内容を少しずつ変化させた.作業内容の変化に伴い,A氏から作業内容に関する質問や確認が具体的に可能になり,その都度OTRからは肯定的なフィードバックを行った.
【再評価】BACSは「言語性記憶」が-2.00,「遂行機能」が-1.08となり改善した.RASは「症状に支配されないこと」が8点と「手助けを求めるのをいとわないこと」が14点となり改善した.初期評価時のような訴えは消失し,困ったことがある場面では自ら援助を求められるようになった.
【考察・まとめ】作業療法場面で細かくスモールステップを設定することで,成功体験が重なりモデリングの技法を用いることで援助希求行動が可能になったと考える.また援助希求行動の練習と作業活動の実施により言語性記憶の改善,出来るようになった作業が増えたことによる遂行機能の改善が生じたと考えられる.統合失調症の行動特性に配慮した,治療環境や作業活動の提供方法が重要であると考える.