第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-2] ポスター:精神障害 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-2-4] 生きづらさを抱え飲酒が生きがいと語るアルコール依存症者への作業療法

名畑 太貴, 芝原 みちよ (兵庫県立ひょうごこころの医療センター)

【はじめに】アルコール依存症者はアルコール中心の生活となり,飲酒以外の作業が制限されている.今回飲酒が生きがいと語るアルコール依存症者に対し生きづらさを考慮した上で作業療法介入を行った.その結果今後の生活に対し前向きに考えられるようになったため報告する.
【倫理的配慮】発表に際し当院の倫理委員会の承認,及び事例の同意を得た.
【事例紹介】40歳代男性.診断名はアルコール依存症,うつ病.幼少期に母親からの虐待や高校でいじめを受ける.有名大学に進学するも馴染めず,就職は両親の期待に沿い大手企業に就職.しかし仕事への意欲が保てず抑うつ的となる.飲酒は20歳代から大酒家でほぼ毎日飲酒していた.
【現病歴】入院前は飲酒して寝ることだけが人生の楽しみで生活も不規則であった.職場に火をつけて死にたいなどの希死念慮が出現し当院初回受診に至る.アルコールの問題も指摘されたため,アルコール依存症・リハビリテーション・プログラムへの参加を目的に任意入院となる.
【作業療法評価】入院前の生活は飲酒か仕事の2択であった.飲酒の理由について「酒を飲むことが幸せで生きがい」や「違う自分になれ気持ちがいい」と発言があり,「自分はダメ人間」と自己否定的な発言も多かった.さらに生活への不安度は9/10で「酒のない生活が想像できない」と漠然とした不安が表出された.その一方で,「健康的な生活を送るために酒をやめたい」と断酒へ意欲的な発言もあった.作業に関する自己評価・改訂版(以下OSAⅡ)では「12:楽しむ」「16:役割に関わる」「17:好きな活動を行う」の作業有能性が1,作業同一性が4である.
【統合と解釈】飲酒の背景には過去の経験から生きづらさが存在していた.飲酒すると「違う自分になれ気持ちがいい」という発言からも現実逃避するために飲酒しており,生きづらい現実から逃れる手段の継続がアルコール依存症という病態を招いていると考えた.またOSAⅡの結果より好きなことや楽しみがないこと,役割を感じられないことも飲酒以外の作業への参加を阻害している原因と考えた.そこで「他者に受容される経験」を積みながら飲酒以外の作業を経験し今後の生活を考えていく方針とした.
【介入と経過】週2回の集団作業療法・週1回の個別作業療法を3ヶ月間実施.飲酒以外の作業の把握のため興味・関心チェックリストを用い,退院後も継続できるようにそこで挙がった畑作りを実施した.OTRは事例から教えてもらう立場に徹し,畑の世話やOTRへの助言を通して役割を感じられたり,自身を認められる経験が積めるように工夫した.「意外と楽しみは持っていた」「世話するのがいい習慣だ」と振り返りがあった.
【最終評価】「酒以外でも楽しめる自分がいた」「ここでやったことは継続したい」「好きだから飲んでいると思っていたけど,現実から逃れるために飲んでいた」と発言あった.生活の不安度は9/10と変化なかったが「できるかどうか不安」という具体的な不安へと変化した.OSAⅡでは「12:楽しむ」の作業有能性が2,「16:役割に関わる」「17:好きな活動を行う」が3へと向上した.
【考察】生きづらさや今後の生活への不安を抱えながらも健康になりたいと望む事例に対し,気持ちに寄り添いながら作業を協業することで楽しむ経験や受容される経験ができ,役割や習慣の獲得につながった.そしてアルコール中心の生活により制限されていた作業に従事できたことで,今後の生活に対し前向きな気持ちになれたと考える.アルコール依存症者への作業療法では飲酒の背景に注目し,飲酒以外の健康的な作業への参加を促すことが重要であると考える.