第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-3] ポスター:精神障害 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-3-2] 中等症うつ病エピソード患者に対しMTDLPを活用した急性期作業療法

伊達 朱里, 沖田 隼斗, 山園 大輝, 高橋 弘樹, 光永 済 (長崎大学病院/リハビリテーション部)

【はじめに】精神科急性期において,介護負担により抑うつ,身体症状が出現し,任意入院となった事例に介入する機会を得た.生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)を活用し,医療者と対象者が同じ目標を共有しながら,多職種と連携したことで,症状改善を認め,自宅退院に至ったため若干の考察を加え報告する.なお,本報告に関して本人へ説明し書面にて同意を得た.
【症例紹介】60代男性.診断名は中等症うつ病エピソード.両親と3人暮らしであり,X-1年母親が脳梗塞で入院,父親が認知症を発症したことから介護負担が大きくなり辞職,両親とも要介護認定であるもサービス利用はなかった. X年Y-2月,胃の不快感,食思不振が出現し,X年Y月Z日当院外来にて著明な抑うつ,消極的希死念慮を認めたため,任意入院となった.Z+2日より集団作業療法(以下集団OT)開始し,MTDLPによる介入はZ+16日より開始した.
【合意形成の過程】今回対象者に対して,生活行為目標の現状の強みを把握出来る事,またそれらを可視化することでより明確にフィードバックが行える事を考慮しMTDLPを用いた.対象者は著明な抑うつ症状を認め,休養を要する状態であったが「早く自宅に帰らなければ」といった焦燥感や発言を認めていた.デマンドは「自宅に帰って草刈りをしたい」であった.そこで自宅退院へ向けて休養が大切であることを共有しながら,不活動による不安の出現を考慮し,「休息をとりながら日中は作業療法に参加する」ことを合意目標とした.MTDLP開始時は実行度・満足度ともに1/10であった.
【作業療法初期評価(Z+2~9日)】症例は真面目で完璧主義な性格であり,精神症状チェックリストにて①気分の落ち込み65㎜,②緊張61㎜,③イライラ38㎜,④不安67㎜,⑤疲労58㎜,ハミルトンうつ病尺度評価(以下HAM-D)では16点と中等症のうつ症状を認めていた.精神科リハビリテーション行動評価尺度(以下Rehab)は逸脱行動0点,全般的行動51点であった.ADL動作は,Barthel Index(以下BI)100点であり,体重は52.2㎏(BMI19.9)で食思不振により2~3か月で10㎏減少したとのことであった.身体症状としては仮面様顔貌,右上肢軽度固縮,動作緩慢,下肢脱力感,耐久性低下,胃痛を認め,初回の身体機能評価は悲観的な発言があったため実施しなかった.
【経過】集団OTは運動療法を中心に実施し,環境に慣れてくると他者と交流する場面も見られた.自己評価の改善を目的に活動場面においてできていることをフィードバックし,対象者と共有した目標や評価した精神症状は随時多職種間で共有した.Z+33日からは創作活動に参加することができ,抑うつの軽減,興味関心の広がりを認めた.Z+45日「不調があってもうまく付き合っていく」という発言を認め,活動量を自己管理できるようになった.対象者に訪問看護,自立支援医療制度を導入し,Z+60日自宅退院となった.退院後は当院外来通院を利用し,両親に対しては妹の支援や社会資源が導入された.
【作業療法最終評価(Z+53~60日)】精神症状チェックリストは①61㎜,②10㎜,③イ6㎜,④49㎜,⑤62㎜,②③④の項目で軽減を認めた.Rehabは逸脱行動0点,全般的行動30点と改善を認めた.体重は59.8㎏(BMI22.84)と増加を認め,身体機能評価に対しても同意が得られ,握力(右/左)24.0/26.0㎏,TUG(快適/最大)9.37/7.33秒であり,退院時の実行度5,満足度3となった.
【考察】今回精神科急性期よりMTDLPを使用し介入を行なった結果,目標を対象者と共有でき,自身の存在を肯定することができたことで自宅退院へと繋げることができた.