第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-3] ポスター:精神障害 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-3-8] 関与度推定システムを適用したポジティブ作業に根ざした実践における効果検証

野口 卓也1, 萬 貴裕2, 橋爪 卓3, 川上 孝行4, 西本 由香里5 (1.慈圭病院, 2.医王ケ丘病院, 3.田宮病院, 4.河口医院, 5.倉敷神経科病院)

【背景】
ポジティブ作業に根ざした実践(以下,POBP)とは,人間の幸福を促進する可能性を有したポジティブ作業の学習機会を提供し,それを生活に習慣化していく支援方法である.POBPは,ポジティブ作業評価(以下,APO-15)を用いて評価・介入を行う.APO-15とは,ポジティブ作業への関与状態を測定する尺度である.APO-15は,上記の状態を5段階評価できる関与度推定システム(以下,EES)があり,クライエントの状態に応じて幸福を効果的に高めるポジティブ作業の情報を作業療法士に提示できる関与進度表(以下,進度表)が実装されている.他方,POBPにEESを適用した効果は未知である.本研究の目的は,精神障害者を対象に,EESを適用したPOBPの効果を多施設共同の単群前後比較試験で検証することである.
【方法】
対象者の選定基準は,①精神疾患があり治療期間1年以上の者,②年齢20歳以上の者,③潜在ランクが1〜4の者,④主治医から研究参加が可能と判断された者,⑤研究内容が理解でき,参加に同意する者とした.実施環境は,デイケア(以下,DC)[2施設],精神科病院[3施設]とし,介入はDCや作業療法の標準プログラムにEESを適用したPOBPを加えて支援した.介入期間はベースラインから5ヶ月間,フォローは介入終了から1ヶ月間とした.対象者の基本情報は,性別,年齢,診断名,薬物療法,生活環境,発病からの期間,入院期間,入院回数を集めた.効果指標は,ポジティブ・ネガティブ感情スケジュール(以下,PANAS),日本版主観的幸福感尺度(以下,SHS),精神障害者社会生活評価尺度(以下,LASMI),APO-15を採用した.データ分析は,対象者のベースライン時の基本情報を記述統計量で求めた.POBPの効果は,統計処理に治療企図解析を行い,一般化線形混合モデルで求めた.モデル設定は,目的変数にPANAS(ポジティブ感情,ネガティブ感情),SHS(平均値),LASMI(合計,日常生活,対人関係,労働または課題の遂行,持続性/安定性,自己認識),APO-15(合計,ランク値,ポジティブ関係,達成,エンゲージメント,意味)の各期得点を投入し,固定効果は介入の時系列を示すダミー変数(ベースライン=1,介入後=2,フォロー=3),変量効果は個体差を示す対象者の識別番号と環境差を示す施設番号を投入した.効果判定は,①固定効果の値が95%信用区間で0をまたがない,②各モデルの収束判定を示すRhatが1.1以下とした.本研究は,全施設の倫理審査承認,対象者の同意を得て実施した.
【結果・考察】
本研究の対象者は18名であった.他方,研究終了までに退院,転棟,入院などの理由で3名辞退された.対象者の基本情報は,診断名(統合失調症12名,うつ病5名,器質性精神病1名),性別(男性9名,女性9名),年齢(57.61歳[±13.25]),生活環境(単身5名,家族7名,入院6名),発病からの期間(19.14年[±15.38]),入院期間(0.97年[±3.13]),入院回数(5.72回[±12.33])であった.EESを適用したPOBPは,効果指標の全15要因のうち11要因で介入効果を認めた.具体的には,効果判定の基準を満たした目的変数はPANAS(ポジティブ感情),SHS(平均値),LASMI(合計,日常生活,対人関係,労働または課題の遂行),APO-15(合計,ランク値,ポジティブ関係,達成,エンゲージメント)であった.本実践が多数の要因に効果を認めた理由は,EESによってクライエントの状態に応じたポジティブ作業をPOBPで生活に習慣化できるように支援ができたことが寄与したと考えられる.これより,EESをPOBPに適用することは,クライエントの状態に応じた幸福の促進に効果的に役立つ可能性があると考えられる.