第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-4-6] 活動量と気分の関連性に焦点を当てた介入が再発予防につながった双極性障害患者の一例

公家 龍之介1,2, 田中 佐千恵3, 中野 未来2,4, 小林 正義1,3 (1.信州大学大学院総合医理工学研究科医学系専攻保健学分野, 2.信州大学医学部附属病院, 3.信州大学医学部保健学科, 4.信州大学大学院総合医理工学研究科医学系専攻医学分野)

【はじめに】双極性障害は再発率が高く,1年以内の再発リスクは約4割とされる(Radua, 2017).また,躁・うつ病相を短期間で繰り返す急速交代型の再発リスクは更に高い(Vazquez, 2015).今回,急速交代型を呈したが,活動量と気分の関連性に焦点を当てたことが再発予防に効果的であったと考えられる症例を経験したため,その介入について考察する.本発表にあたり本人に説明し同意を得ている.
【症例紹介】30代半ば,男性,双極性障害.妻との2人暮らし.学生時代のアルバイトを契機に接客に興味を持ち,接客業として働いていた.仕事ぶりは優秀で,X-2年に店長を任されたが激務であり,次第に不眠や気分の落ち込み,めまいが出現した.近医を受診し,抗うつ薬を処方されたが,めまいの増悪を自覚し,自己中断した.その後も体調は回復せず,神経衰弱の診断で1ヵ月休職し,退職した.X-1年に自己判断で新しい職場に就職したが,数か月で体動困難となり,X年Y月当科受診し,双極性障害に診断が変更された.気分安定薬による治療が開始されたが,翌月には急速交代型を呈した.妄想,活動性の亢進,浪費がみられたため,当科緊急受診し,同日医療保護入院となった.
【介入経過】入院時ヤング躁病評価尺度(YMRS):34点,機能の全体的評定尺度(GAF):25点であった.入院1ヵ月後に任意入院へ変更となり,作業療法(以下,OT)を開始し,作業活動,卓球などを行った.過剰な他者配慮が目立ち,1〜2週間単位で気分の波が生じていた.入院2ヵ月後に個別心理教育を実施し,睡眠時間が短くなる,衝動買いする,人と話したくなる,などの前兆サインを確認し紙面にまとめて妻と共有した.一定の生活リズムは維持していたため,入院後3ヵ月で退院となった.退院時YMRS:15点,GAF:50点であった.退院後は2週間おきに気分の波を繰り返していた.Y+10月に再就職を目的に外来OTを開始した.活動記録表を用いて気分変動を振り返ると,入院中に共有した前兆サインは「すぐに気づくことが出来ない」と予防効果は十分ではなかったが,活動量に着目すると,1日の歩数が100歩〜2万歩の幅があった.活動記録表から歩数と気分に一定の関連性を確認し,「1日1万歩は多いですね」と自ら活動量の調整が可能となった.再就職の希望が強かったためX+1年,3ヵ月間のリワークプログラムに参加された.集団交流場面では役割を一手に担い,その後調子を崩して数日休むパターンが確認され,「気付いてなかったですが,無理してました」「この時期は歩数も増えてますね」と振り返った.リワークプログラム終了時,YMRS:0点,GAF:55点,出席率:89%,復職準備性評価スケール:3.17(3以上で復職申請可能レベル)であり,一定の就労準備状態は整っていると判断された.その後も気分と歩数は主体的に記録を続け,「月1回ぐらいは気分が少し沈むことがあります」と自身のペースを予想して過ごしていた.発症から1年以上経過した現在は,再就職を目指し,就労支援事業所への見学を開始している.
【考察】急速交代型を呈した双極性障害患者に対し,活動量としての歩数と気分変動の関連性に焦点を当てたところ,活動量の自己調整が可能となり,発症から1年以上経過後も再発することなく過ごせている.再発の前駆症状として多弁,自尊心の高まり,活動量の増加,支出の増加が報告されているが(Andrade-Gonzalez, 2020),多弁や自尊心の高まりなどは自覚しにくい.一方,計測可能な歩数などを活動量の指標とすることは,本人が自覚しやすく予防的な対処につながりやすい.客観的な指標を用いた活動量のモニタリングは急速交代型を呈した症例の再発予防に有用と思われる.