第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-6-5] 社会機能の改善に1年以上の精神科デイ・ケア利用が必要であった一例

上原 由嵩1, 四本 かやの2 (1.社会医療法人寿栄会 ありまこうげんホスピタル, 2.神戸大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
精神科デイ・ケア(以下,DC)は,回復期までの治療の場であり1年程度(山根,2012)とされ,診療報酬制度でも1年以上の利用に制限がある.今回,利用から約2年後に社会機能が改善した症例を経験した為,回復とDCの利用期間について考察する.
【症例紹介】
30代後半の女性.統合失調症.大学在学中に発症し,大学卒業後就職したが,仕事は転々とした.5年勤めた職場を1年前に解雇され,身体不調を訴え内科等を受診したが異常なかった.精神症状悪化し2か月前に精神科初診,通院を開始した.治療に懐疑的であったが,服薬と症状改善が進み社会生活体験を目的にDCが処方された.処方時から結果時まで薬物療法はブレクスピプラゾール錠2㎎(クロルプロマジン換算値100㎎)であった.発表に際し,症例の同意を書面にて得ている.
【評価と方針】
母親の勧めで渋々週1回の利用を開始した.初回面接時の機能の全体的評価(GAF)は38点,日本語版社会機能評価尺度(SFS-J)は87点で,6-9時間/日を1人で過していた.開始時は離れた場所から他者を眺め,働きかけられると表面的に応えるが会話は続かなかった.疾病理解が不十分でありDC利用含め治療に対し消極的だったため,「DCで人に慣れること」を当面の目標として共有した.心理教育プログラム導入の必要性を職員は強く感じたが,治療中断を避け安心感を得ることを優先し,支持的に受容的にかかわることとした.
【経過】
週1回利用を2か月続け,「慣れた」と3か月目に週2回利用となった.職員は心理教育の参加や利用頻度の増加をやんわりと勧めたが,否定的であった.9か月目に「DCは自分にとって良いと思う」と言い,ようやく心理教育導入と週4回利用に同意した.15人程の心理教育プログラムに受動的に参加し,プログラム外で資料を要求したりしたが,内容の理解は十分ではなかった.その為,心理教育プログラムを,統合失調症の同年代6名で再構成した.13か月目に「もしかしたら統合失調症の症状が以前あったかも」と述べ,14か月目プログラム内で会話が増え,16か月目に「人と交流することは楽しい」と話した.そこで話題を決めて4-5名で交流する場をプログラム外に設け,会話を楽しむようになった.19か月目に就労準備を開始し22か月目に就労継続支援B型事業所の利用となった.
【結果】
GAFは58点,SFS-Jは133点と改善が見られ,就労継続支援B型事業所に週2回通所した.休日にはDCでできた複数の友人と過ごすこともある.就労して生活を自立することが,現在の希望である.
【考察】
今回,心理教育の参加や週4回利用に9か月間要し,プログラムの効果で4か月後の13か月以降に社会機能の改善が見られた.心理教育は早期からの実施が望ましいが,今回は病識の不足と治療意欲の低さから9か月目まで導入が困難であった.心理教育導入後は大きな集団で理解は進まず,少人数で内容も焦点化した結果,理解が進み,集団内交流ができた.小集団活動は集団内でのコミュニケーションの回復には極めて効果的(原,2016)とされ,さらに交流の機会を拡大することができた.
精神病未治療期間が長く,病識不足があり,治療に対し拒否的であった症例のリハビリテーションにおいて,治療中断や再発を避けることは必須であり,DCを安心して利用できるようになるには一定の時間が必要であった.初めての通所者が比較的過ごしやすいのは,人数が少なく,静かで,課題が比較的明瞭な,小グループ活動(窪田,2005)とされるが,「慣れる」ための時間を保障することは重要である.